相談援助の理論と方法 第39回講義 レジュメ<後半> 2010/10/25*ストレングスモデル

相談援助の理論と方法 第39回講義 レジュメ<後半> 2010/10/25
社会福祉士養成科・夜間部にて
<前半からの続き>
*診断主義学派の特徴

・1920年代からのケースワークは,リッチモンドの社会診断の流れを引きながらも,第一次世界大戦後の戦争神経症の治療に用いられたS.フロイトの精神分析学に接近した。とりわけそのパーソナリティ論にひかれ,環境との関係を次第に弱め,個人の心理的問題への関心に傾斜していった。このようなケースワークが,後に「診断主義ケースワーク」と呼ばれることになった。
・診断主義の流れは,ニューヨーク社会事業学校のG、ハミルトン(G.Hamilton)による『ケースワークの理論と実際』(1940年)に集約される。その後、診断主義のケースワークは,1960年代にはF.ホリス(F.Hollis)の「心理-社会的モデル」として発展し,現代のソーシャルワークの理論モデルの一つとなった。また,ヴインターらの「治療的モデル」グループワークにも受け継がれている。
診断主義(診断派)ケースワークの特徴とは、①利用者の問題の心理的側面の重視、②パーソナリティの発達に焦点を当てた過去の生活史の重視、③面接を中心とした長期的援助関係における援助者の主導性、④調査→診断→治療の過程を重視する といった点が挙げられる。
診断主義ケースワークは、リッチモンドと同様に面接を重視し,家族関係を中心とした環境を重視したが,関心は主として利用者の内面・心理的環境にあって,リッチモンドのように貧困,疾病,労働などを含めた社会的環境の全体が視野に入れられていなかった。
・診断主義ケースワークは、S.フロイトの精神分析の理論と方法を取りいれた。利用者のもつ問題やその原因は、社会環境よりも個々の精神内界にあると捉え、ケースワークに「治療的意味」をもたせた。つまり、利用者の問題を病理・病的状態ととらえ、これらを治療するのは援助者であるという専門職中心の医学モデルである。
・診断主義ケースワークの援助の過程とは、専門職からの、利用者の内面の問題の原因の探求と解決の過程である。つまり「援助者が利用者に働きかける過程」であった。その目的は、自我の強化とそれによるパーソナリティの社会環境への適応を図ることにある。

3 生活モデル テキストP133
・テキストP133表6-4:生活モデルの特徴

○概要:ライフ・モデル・アプローチ
 1960年代以降アメリカでは,複雑で多様な生活問題に対する援助の社会的要請が高まり,従来の個人のパーソナリティに治療の焦点をおいた伝統的なアプローチに対する批判が高まった。そのソーシャルワークの限界を打開するために,生態学や一般システム理論などの新たな理論的枠組を背景に登場したのがジャーメインらによって体系化されたライフ・モデル(生活モデル)である。このモデルでは,人,環境のどこに問題があるのかを問うのではなく,問題は生活空間における不適切な交互作用(transaction)にあると考え,人と環境の接触面(interface)に焦点をあてていく。ソーシャルワーカーの社会的目的は,人々の成長と発達を最大限にし,環境を改善する交互作用を生み出すように,人々の適応能力と環境の特性を結び合わせることとされる。そこでは,生活体の適応能力を高めると同時に環境を改善するという二つの実践の焦点があり,人も環境も等しく重要であって,この両者の互恵的適応関係のバランスがいかに獲得されるのかに最大の関心が払われる。したがって,ソーシャルワーカーが扱う対象は人と環境の「開かれた」連鎖的交互作用であり,「人と環境の適合性」(person-environmental-fit)である。

<テキスト解説>
・生活モデルは、1980年代の提起以降、中核的なモデルとされている。
・ソーシャルワーク理論のなかに、一般システム理論が摂取され、ピンカスとミナハン、ゴールドシュタイン、コンプトンとギャラウェイらにより、理論が構築された。
・実践対象を構造・要素・機能・時系列変容からとらえていく視点をもたらした。
・システム論による「機械論」的理解のあり方に批判が向けられた。

・生態学を学問的基盤にした「生活モデル」が、ジャーメインらによって提唱された。
ソーシャルワークにおける中核として摂取されてきている。
・生活モデルは、生物と環境の間のバランスのとれた相互依存関係について追究する生態学の特徴を、「人と環境」との関係において考究したものである。
人と環境の交互作用が、焦点となる。「生活過程」は、生活の・空間・時間・環境におけるさまざまな要素との間でのやりとりの過程としてとらえる。環境との間の関係性が重要となる。

・人が環境との関係性のなかで生活を営むことは、環境からの要求・要請に応答することが求められる。
生活上の問題・課題は、人と環境の交互作用のなかでその調和が崩れること、環境からの要求・要請への対処が困難であり、それが生活ストレスとなって、過重な負担となることにより発生する。

・クライエントの生活課題が人と環境の交互作用のなかで生じ、その生活課題を、環境からの要請に応答する対処の実態といった複合的視点でとらえることが可能となる。このことにより、課題の解決に向けた主要目標を、対処による適応に定めることができる。

・クライエントの適応へのコンピテンスを高めていくことが重要となる。
・コンピテンスとは、具体的目標の達成に向けられた動機づけや認知的能力、また、環境に対する制御能力や自己統御力であり、生活モデルはソーシャルワーカーに、包括・統合的な視野や視点を提供する。

・一般システム理論と生態学理論双方のプラスの側面を取り込み、融合させたエコシステムという表現を用い、その視野・視点を強調する立場もみられる。

4 ストレングスモデル
○概要:ストレングス視点 strengths perspective
 アメリカのソーシャルワーク実践理論において,1980年代以降提唱されている視点。それまで支配的であった病理・欠陥視点を批判する立場をとる。ストレングスとは,人が上手だと思うもの,生得的な才能,獲得した能力,スキルなど,潜在的能力のようなものを意味する。ストレングス視点とは,援助者がクライエントの病理・欠陥に焦点を当てるのではなく,上手さ,豊かさ,強さ,たくましさ,資源などのストレングスに焦点を当てることを強調する視点であり,援助観である。

<テキスト解説>
・ソーシャルワーク実践におけるストレングスへの着目は、1980年代後半より提唱された。
今日、主要概念の一つとなっている。
・サリーベイやラップが研究を進めた。
・ソーシャルワーカーが支援課題をとらえるとき、「強さ」や「能力」に焦点を当てようとするモデルであり、「豊かな能力、活力、知恵、信念、確信、望み、成長、可能性、自然治癒力など現在から将来に至るまでの強さに着目し、それらを引き出し、活用して問題を解決しようとする」支援観である。
・個人、グループや地域社会・コミュニティ - クライエント個人の外部環境の「強さ」にも複眼的に着目していくことが期待されている。
・治療モデルへの批判から生成されたモデルである。
・治療モデルがクライエントを「対象」としてとらえるのに対し、ストレングスモデルは「主体」としてのクライエントを強調する。
・支援課題把握の際、クライエントの抱える「問題」を「分類」し、直接的因果関係として特定しようとする治療モデルの方向性に対し、クライエント等の「強さ」を見出し、それを「意味づけ」ていくことを重視する。
客観的証拠(エビデンス)を重視するのに対し、クライエントのナラティブの尊重され、「客観性」に対する「主観性」が強調される。
・ストレングスモデルは、クライエント、その資源のなかに「強さ」や「能力」、「よさ」を発見し、新たな「像」、視点を獲得するという強みをもつ。


*用語解説は下記をクリック



■用語解説:ハミルトン
Hamilton, Gordon  (1892-1967)
 アメリカにおける診断主義ケースワークの代表的な女性研究者の一人。1923年から57年までの約35年間,ニューヨーク社会事業学校(現・コロンビア大学大学院)で教鞭をとり,診断主義ケースワークの確立と発展に大きく貢献した。また,その代表的著書『ケースワークの理論と実際』(Theory and Practice of Social Case Work, 1940)は,アメリカのみならず,世界中で読まれ,各国のケースワーク研究や実践の発展にも貢献した。

■参考用語 精神分析学
精神分析学は、ジクムント・フロイト(Sigmund Freud)によって創始された人間心理の理論と治療技法の体系である。広義には、フロイト以後に発展した分派を含めた理論体系全体を指す。1920年代に戦争神経症の治療などに用いられた。
◎精神分析とは「抑圧された心的なものを意識化すること」とフロイトは定義したうえで,精神分析の「分析」とは,化学者が合成物を分析して,その構成要素を見つけだすのと同じように,合成物としての患者の症状を分析して,症状を構成する衝動を見つけだし,その衝動について患者自身が意識化できるようにするための働きかけであると述べている。精神分析は20世紀前半の精神医学・心理学に大きな影響を及ぼした。

■参考用語:フロイトFreud, Sigmund (1856-1939)
 精神分析の創始者。臨床例から,抑圧理論および性的外因説によるヒステリー論を展開し,ここで用いた自由連想法による治療を「精神分析」と命名した。その後,人間の無意識とその意味の解読法の理論化を試み,エディプス・コンプレックスと小児性欲説,自我防衛機制による心的構造論と深層心理学を体系化した。
エディプス・コンプレックスとは、S. フロイトによって提唱された幼児期(3歳から6歳程度)の男児が抱く「母親を独占したい」という衝動と父親への嫉妬心を示す。正常な発達過程では,父親に代わって母親を独占したいという衝動は,やがて父親への同一化から男性としての性的役割を形成するなかで解消へと向かっていく。
防衛機制とは、S. フロイトによって明らかにされ,その後A. フロイトらによって発展させられてきた,精神分析学で用いられる中心概念の一つ。イド(エス),超自我,外界の現実の対立する圧力によって,自我のなかで緊張,不安,葛藤が生じる場合,自我がそれを解決し,日常生活のなかで安定を図ろうとする無意識の働き。当面の問題を意識の外に追い出す「抑圧」,満たされない性的願望などを社会的に認められる代償行動で満たす「昇華」など,さまざまなものがあげられる。

■参考用語:自我
自我は精神分析学上の概念で意識のある機能の中心である。
・自我
自我は意識層の中心の機能で、イドからの要求と超自我からの自己の規制を受け取り、感情を現実に適応させる機能である。
・イド(エス)
イドは無意識層の中心の機能で、感情、欲求、衝動をそのまま自我に伝える機能である。イドは視床下部のはたらきと関係があると思われる。
・超自我
超自我は上の二つの層をまたいだ機能で、ルール、道徳観、倫理感、自己の規制を自我に伝える機能を持つ。この機能がイドや自我を強く押し付けているとき、自我がエスの要求を通すことができずに防衛機制を働かせることがある。超自我は前頭葉のはたらきと関係があると思われる。

■ストレスへの対処 stress-coping
・ラザラス(Lazarus, R. S.)らの「ストレス―対処理論」によれば,ある刺激がストレスとなるかどうかは,人間と環境の関係を個人がどのように認知的評価(appraisal)をするかによると考えられている。そして,ストレスとなりうる状況下では,それをどのように認知的評価をし,どのような行動をとるかが,ストレスを緩和するうえでの鍵となる。絶えず変化する環境において,このような認知的評価を継続的に繰り返していく過程にみられる一連の認知的評価や行動をさして,彼らは「対処」(コーピング coping)と定義している。対処は,その機能から,情動中心の対処(emotion-focused coping)と,問題中心の対処(problem-focused coping)とに分類される。また,対処には,価値観や情動といった個人の内面的側面や,ソーシャルサポートのような環境的側面も大きく関与している。ラザラスのストレス―対処理論は,ジャーメインとギッターマン(Gitterman, A.)によるエコロジカル・アプローチにおいて,ストレスや対処が重要な構成概念として用いられるなど,ソーシャルワーク実践においても有用な知見が含まれている。
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by yrx04167 | 2010-10-26 12:58 | Comments(0)