相談援助の理論と方法 第43回講義 レジュメ<前半>11/08*社会福祉士養成科*エンパワメントアプローチ

相談援助の理論と方法 第43回講義 レジュメ<前半>2010/11/08
*社会福祉士養成科・夜間部にて講義

<補足>
○概要:行動療法

 行動療法とは、学習理論を基礎とし,すべての行動は経験を通して学習されたものであると考える治療方法。例えば,子どもの夜尿行動は,子どもが正しい排尿行動を学習しなかった結果によるものであると解釈する。そこで,この治療理論では,子どもは正しい排尿行動を再学習すれば,夜尿行動は除去されると考える。

1 古典的条件づけ法
1)系統的脱感作法

例:登校拒否の子どもの治療。まず、行動分析により、不安階層表を作成する。その後、段階的に弛緩訓練を行なう。弛緩法によって、リラックスした状態で不安階層表にもとづき、イメージ刺激に段階的にさらし刺激への耐性を学習するのである。
・これは、負の情動反応を除去する、括抗的条件付け法の代表的技法である。

2)現実脱感作法
・例えば、登校拒否児を母親やセラピストが付き添って、徐々に学校に接近させる方法である。

2 オペラント条件づけ法
・望ましくない反応を除去しつつ、これに変わる望ましい適応的反応を形成する方法である。

1)クライエントがすでに望ましい行動を有している場合は、この望ましい反応が出現した時にこれを強化(報酬を与える)することが基本になる。
2)行動形成法においては、最初は低次の(簡単な)段階から次第に高次の新たな反応を形成するように、スモールステップで、適宜報酬を与えつつ、段階的に形成していくのである。
3)逆条件づけ法においては、不適応反応を維持している強化子を用いて、これと拮抗する(両立しない関係にある)適応反応を強化する技法でる。
例:問題行動への教師の注視に触発されて暴力を振るう生徒に対し、問題行動は無視し、適応行動をした時に注視し笑いかけてやる。ここで、注視は適応行動を強化する強化因に変化する。
4)トークンエコノミー(代理貨幣)法においては、望ましい反応に対してトークンが与えられる。このトークンが一定数たまるといろいろな品物や特典(強化子)と交換できるのである。この方法は、病院や施設において、生活に変化をもたらす要因にもなる。

3 モデリング法
 バンデュラの社会的学習理論(モデリング理論)を背景にする方法である。これまでの理論では、学習の成立のためには何らかの直接的な強化が必要であった。モデリング理論では、観察者はモデルを観案するのみで認知的活動を伴い、外的強化がなくても模倣反応の学習が成立すると考える。モデルの提示の仕方としては、ライブモデリング(実物のモデルを用いる方法)、象徴モデリング(VTRや映画、物語などの媒体を使用する方法)内潜モデリング(来談者自身にモデルをイメージ化させる方法)などがある。

・従来の強化型の行動療法では、クライエントに外的報酬がないと学習しないという行動傾向を生み出しがちであった。モデリング法では、適応行動を模倣学習すること自体が強化になって学習すると考えることができる。

4 行動論的セルフコントロール
・クライエントは、治療者を離れて、自己訓練し自己観察を実施するような包括的プログラムによって、自己管理を拡大していくのである。外的環境刺激や治療者よりも患者の内的環境が重視される。自立訓練、バイオフィードバックなどの訓練技法によって行動の変容をめざすものである。さらに、自己教示を強調する方法、自己言語化、潜在セルフコントロール、認知再構成などの技法は、認知行動療法と呼ばれることがある。


1節 エンパワメントアプローチ
*概要:エンパワメント

・エンパワメント・アプローチとは、利用者のもっている力に着目し、その力を引き出して積極的に利用、援助することをいう。
エンパワメントがソーシャルワークのあらゆる領域で広く取りいれられるようになった背景には、ソーシャルワーク理論として一般システム論やエコシステム論、ライフモデルが定着したことがある。 エンパワメントは、1960年代のアメリカにおける公民権運動やブラックパワー運動を源流とする。

*B.ソロモンによるエンパワメントの定義
・エンパワメントは、1976年にソロモンによって初めて用いられた用語である。
 「エンパワメントとは、スティグマ化されている集団の構成メンバーであることによって加えられた否定的な評価によって引き起こされたパワーの欠如状態を減らすことを目指して、クライエントもしくはクライエント・システムに対応する一連の諸活動にソーシャルワーカーが関わっていく過程である」とソロモンは定義した。

・エンパワメントは、クライエントの潜在能力や能力の強さに焦点を当てる。
 エンパワメントは、クライエント自身が問題解決の主導者であることを前提としており、ソーシャルワーカーは原則として側面的援助に徹するべきである。
 エンパワメントの視点は生活モデル(生態学的視点)の実践展開に方向性を与える側面がある。
 エンパワメントは、ミクロの個人的問題に対する心理調整と、マクロの社会構造の改革という、両者の援助に同時に関わる。
*エンパワメントは、長期にわたって社会的ケアを受けなければならない状況におかれているような高齢者、身体や精神に障害のある人々へのソーシャルワーク実践に拡大されている。
*エンパワメントにおける「パワー」は、ソーシャルワーク実践を統合していく重要な構成要素である。また、医学モデルに基づいたクライエントシステムの病理や弱さの側面を志向するあり方を脱却しつつ、クライエントの健康や強さの側面を重視する「強さ志向の視点」の必要性が強調されるようになった。

<テキスト解説>
1 起源と基盤理論 テキストP164

・17世紀の法律用語が起源と言われ、「公的な権威や法律的な権限を与えること」の意味。アメリカの公民権運動等を経て、広範に用いられ、現在は学際的用語として定着した。
・ソロモン(B.Solomon)は、『黒人へのエンパワメント 抑圧された地域社会におけるソーシャルワーク』を1976年に著した。
・ポストモダニズムの潮流に沿い、障害者運動、セルフヘルプ活動などの影響を受けた。
・ソーシャルアクションのレイノルズの思想と実践、マルシオの「コンピテンス概念」を摂取した。昨今のストレングス、リカバリーの概念等との親和性をもっている。
・国際ソーシャルワーカー連盟・ソーシャルワーク定義において、専門職の役割として明示された。
 
2 エンパワメントアプローチを理解するためのキーワード
*ポストモダニズム

・建築分野発祥の概念であり、論理性、実証性、合理性の近代主義(モダン)を否定し、脱近代を目標とする思想的潮流。
・近代を超えようとする文化・芸術運動であり、近代の合理主義的傾向を否定する考え方。もともとは、機能主義・合理主義に対置する新しい建築を意味した。
・社会学では、ポストモダン哲学の影響を強く受け、従来の部分/全体の二元論的発想、近代的自我に根ざした社会分析を離れつつも、難渋かつ抽象的な哲学論議に深入りすることなく、「主体の脱中心化」のテーマに則った経験的記述の方法論が彫琢されている。

*パワー
・人が、自律性を確保し、生活を維持のために他者と協働しつつ、自らの人生に影響を行使する力。

*パワーレスネス
・問題解決のための資源との接触が制限されていたり、知識や技術が不足している状態。

3 適用対象・適用課題 テキストP165
・障害、人種、貧困、性など、社会的マイノリティであることを理由に抑圧され、パワーレスな状態におかれてた人々と、その課題全般である。

4 支援焦点
・支援展開は、クライエント自らが、抑圧状況を認識し、自らの潜在能力に気づき、能力を高め、抱える問題に対処する。加えて、抑圧状況の要因を変革していく。

5 支援展開
・エンパワメントアプローチの具体的内容(デュボイスとミレイ)
  テキストP166表
・援助の当初より、ミクロ・メゾ・マクロの各次元への介入、環境との交互作用を意識し、複眼的視点で同時併行的に、問題・課題の解決に挑戦する。

・クライエントとの面接、社会生活技能訓練(SST)、グループワーク・自助グループ活動、アドボカシー活動、ソーシャルアクションなどの手法が活用されている。


<後半に続く>


*用語解説は下記をクリック




○概要:オペラント条件づけ
 スキナー(Skinner, B. F.)らの実験に基づく学習理論。スキナーらは,空腹状態にある鳩を箱に入れ,箱にあるレバーを押せばえさが提示されるという実験装置を作った。最初,偶発的にレバーに触れえさが提示されていたが,やがてレバーを押す頻度が急増した。この実験をもとに,ある行動に続いて起こる結果が本人にとって報酬となるものならば(強化),その行動を維持・形成していくが,強化されなければやがてその行動は減少することがわかった。つまり,ある状況下でのある行動は,その結果しだいで増減するという考えである。オペラント条件づけは,SD(弁別刺激)→R(反応)→SR(強化刺激)といった図式(三項随伴性)で表される。オペラントとは,自発的行動を意味する。

○解説:トークン・エコノミー
 目標行動に対する正の強化技法である。ある行動に対する強化子として,コイン,シール,得点など(トークン)を提示し,それらが一定量になると,クライエントの望む報酬と交換できる。このトークンは,通常の経済貨幣と同じ役割を果たし,クライエントの望むものと交換できるところに意義がある。したがって,トークンと交換できる内容を広範囲にすることによって,より強化子としての役を果たすことになる。

■エンパワーメント empowerment
・エンパワメントという用語は、看護や心理学などさまざまな隣接分野でも用いられており,それぞれ意味が微妙に異なる。
 ソーシャルワークにおいて一致した定義はいまだないが,おおむね,個人,家族,集団あるいはコミュニティが,その個人的,対人関係的,社会経済的および政治的な影響力(パワー)を強め,それによってその取り巻く環境の改善を実現させていくこと,あるいはそれらが実現された状態を意味している。
パワーの脆弱化,無力化をディスエンパワーメント(disempowerment),パワーの欠如状態をパワーレスネス(powerlessness)とそれぞれよんでいる。
 ソーシャルワークにおいてこの概念を初めて取り上げたのは,ソロモン(Solomon, B.)の著書『黒人のエンパワーメント』(1976)であるといわれている。そこでは,アフリカ系アメリカ人がイギリス系アメリカ人に比較してパワーの欠如した状態にあること,それがスティグマによる否定的評価と社会的な抑圧によるものであり,その結果として,社会的役割を遂行するうえで有用な資源を活用できない状態に陥っているという図式が提示された。こうした状態にあるクライエントに対して,パワーの回復を図っていくソーシャルワークのプロセスに「エンパワーメント」という名称が与えられたのである。
それ以降,1980年代から取り上げられるようになり,90年代に入ると,デュボアとマイリー(Dubois, B. & Miley, K.),グティエーレス(Gutierrez, L.),リー(Lee, J.)などによっておのおののソーシャルワーク理論の中核に位置づけられるようになる。さらに,人種・民族上の少数者にとどまらず,さまざまなマイノリティの人々,例えば,高齢者,障害者,同性愛者,貧困者層などに対するソーシャルワークの取組みにこの概念が適用されていくようになった。このように,エンパワーメントがソーシャルワークに浸透していった背景には,社会経済的な不公平にソーシャルワークが有効に対応できていないという批判と,その裏返しとしての伝統的な医学モデルからの脱却という課題の存在があった。エンパワーメント概念は,生態学的視点にそうことによって,医学モデルに代わる新たな視点を打ち立てるのに貢献したといえる。
 この概念に基づくソーシャルワーク実践は,すべての人間はどのような悪い状況にあってもそれを改善していける能力とパワーを有しているという基本的人間観にたち,クライエントとワーカーとのパートナーシップを通して,クライエント自身がエンパワーメントしていくことが目標になる。加えて,以下のような特徴があることが指摘されている。
 ①制度や社会構造との関係において人はパワーが欠如した状態におかれ,その結果,社会資源をコントロールしたり,獲得することが困難になる,
 ②クライエント= ワーカー関係におけるパワーの不平等性はクライエントのエンパワーメントを阻害する恐れがあるために,両者がパワーを共有しあえる協働関係の樹立が望まれる,
 ③クライエントとそれを取り巻く環境の強さ(strength)が強調される,
 ④ワーカーの介入は,ミクロからマクロにまたがるジェネリックなアプローチが基本とされる,
 ⑤パワーの欠如状態を発生せしめた原因は主にマクロ的なものであるという認識から,特に資源配置上の公平性確保といった政治的パワー回復が重視される,
 ⑥問題解決の前提として,クライエントが変化に向けての責任をもつべきであるという視点にたつ。
・わが国の社会福祉制度の基本をなしていた父権的保護主義(パターナリズム)からの脱却を実現する意味でも,エンパワーメントの促進とそれを可能とする技法の開発,およびそれらの基盤をなすエンパワーメントの理論的精緻化は不可欠であると考えられる。

○用語解説:マイノリティ minority
 社会において支配的な文化,価値,規範などを所有し,それらを行使することで当該社会のノーマルな成員として生きている人々をマジョリティとよぶとき,マジョリティからみて異質な存在,排除すべき存在はマイノリティとなる。マジョリティ/マイノリティということばは,たんに人々を多数派/少数派として分類する概念ではない。そこには「普通である」支配的集団から「普通でない」人々への権力行使,差別,排除の行使という含意がある。具体的には,民族的な少数者,同性愛者,障害者,女性などが現代社会のさまざまな生活文脈においてマイノリティといえる。マイノリティへの差別,排除を詳細に捉え解読し,批判し解体する営みは,市民としての権利をマイノリティに取り戻すことにとどまらない。それは「普通であること」に含まれているさまざまな差別的実践や意味を批判的に解読する作業でもあり,マジョリティが「差別すること」から解放される契機ももつ。

○解説:性的マイノリティ
 性的少数者。同性愛者や性同一性障害者などのことをいう。それに対し,異性愛者は性的マジョリティである。人は生まれた身体とその性的アイデンティティが一致しており,異性に性的・恋愛的感情をもつこと(性的指向)が疑われない強制異性愛社会において,性的マイノリティは多くの場合「異常」というレッテルを貼られ,さまざまな差別や抑圧を経験している。性的指向やアイデンティティによる差別を禁じる人権保護などもあるが,現状としてそれらは北欧やアメリカのいくつかの州以外は皆無である。


*前回の講義レジュメ等
社会福祉士受験支援講座・教員日記 : 相談援助の理論と方法 第42回講義 レジュメ<前半> 2010/11/04
社会福祉士受験支援講座・教員日記 : 相談援助の理論と方法 第42回講義 レジュメ<後半>11/04*危機介入、行動療法アプローチとは
社会福祉士受験支援講座・教員日記 : 相談援助の理論と方法 講義 練習問題 11/04*危機介入モデル、課題中心モデルとは

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by yrx04167 | 2010-11-09 13:03 | Comments(0)