相談援助の理論と方法 第44回講義レジュメ・前半11/12*フェミニストアプローチ*社会福祉士養成科・夜間

相談援助の理論と方法 第44回講義 レジュメ・前半 2010/11/12
*社会福祉士養成科・夜間部にて講義

3節 その他の実践アプローチ
1 実存主義アプローチ

・1960年代に、クリルによってソーシャルワーク実践に導入された。
・実存主義アプローチは、キルケゴールやパスカルを源として、ヤスパースやハイデッガー、サルトルらによる実存主義に理論的基盤がある。
 実存主義は、合理主義や実証主義による客観的な人間理解を否定し、人間の自己喪失を批判し、自己の存在に関心をもつ主体的な存在(=実存)としての人間を強調し、生の過程における苦悩を必須としている。

*実存主義を理解するためのキーワード
*疎外

・自らの存在意味を理解することができず、不安定な状態にあること。実存的苦悩を抱えている。

*幻滅
 実存主義アプローチにおける介入概念であり、過去の生き方を放棄し、自我に囚われた状態から脱却する。

*適用対象・適用課題
 特定無し。「疎外」に悩むクライエントである。

*支援焦点 テキストP172
・実存主義アプローチの展開においては、自我に囚われた状態から脱するため、他者とのつながりを構築し、疎外から解放されることに焦点がある。

*支援展開 テキストP173
・実存主義アプローチによる支援過程は明確化されてはいない。
・実存主義アプローチの局面展開(3局面) テキストP173図
 第1局面「他者」に関心を向ける
第2局面「自我に囚われた状態」から抜け出す
第3局面「疎外」から解放される

・「疎外」に悩むクライエントは、自己のみに関心を払い、自我の力だけで自己を安定させようと試みている=自我に囚われた状態。その脱却は、他者に関心を向け、つながりを緊密にすることにより、クライエントが他者からみたときに必要な存在となることによる。
 それにより、クライエントは自らの意味を把握し、実存的苦悩から抜け出す。

*介入概念
<最初の局面>

 先ずワーカーが、クライエントが"関心を向ける他者"になる。
・選択の自由:クライエントの生き方の選択を尊重する
・傾注:クライエントの語りと、生きてきた世界を受容する
・苦悩における意味:他者に関心を向けることにより、クライエントは生き方を変容させ、それは過去への否定につながり苦悩が生じる。その苦悩を肯定する

<次の局面>
・これまでの生き方を「錯覚」としてとらえる。
他者とのつながりが自己を安定させることに気づき、錯覚を放棄する。
=「自我に囚われた状態」からの脱却である。

<最終局面>
・クライエントは「重要な他者」に関心を向け、つながりを形成し、「疎外」から解放される。


2 フェミニストアプローチ テキストP174
<テキスト解説>
*起源と基礎理論

 このアプローチは、ソーシャルワーカーという職業は、女性運動とともに誕生した専門職であり、フェミニズムと同根と捉えている。
 フェミニズムとは、女性に対する抑圧の原因を分析し、女性の解放を目指す思想であり、その思想を基盤としたアプローチである。
 また、ポストモダニズムを背景にしているといえる。

*フェミニストアプローチのキーワード
・ジェンダーレンズ

 ジェンダーとは、「生物学的な性別」とは異なり、「社会的・文化的に規定される性別」を示す。フェミニスト実践では、女性の社会的抑圧への繊細な視点が求められ、ジェンダーレンズはその視座・視点を意味する。

・個人的なことは政治的なこと
 フェミニズムにおいては、女性の現実、個人的経験世界を、社会的文脈のなかに位置づけ捉えることが最重要視される。

*適用対象・課題
・すべての女性のあらゆる状況に適応可能とされる。

*支援焦点
・女性に対する暴力、職業の差別・抑圧等、女性に対する社会抑圧を焦点化し、個人のエンパワメントと、抑圧の根絶を目指す社会変革の双方である。

*支援展開
・ミクロ実践とマクロ実践の双方を視野に入れた展開がなければ、目標は達成されない。女性に対する、資源へのアクセス制限、機会の不平等を正確に捉え、「公的な声」として表明し、かつ実現に向けた戦略の提示が重要になる。
・具体的には、自己主張訓練やリフレーミング、アドボカシーやネットワーキングなどの手法が活用される。

○概要:フェミニスト・アプローチ
 第二波フェミニズムの影響を受け,1970年代なかば頃から登場した,フェミニズムの視点にたって行うソーシャルワーク実践。アセスメント等の際にジェンダー概念を取り入れること,平等主義的な人間関係をワーカーとクライエントの援助関係に反映させること,援助過程においてはクライエントの自己覚醒とエンパワーメントを促す,といった特徴をもつ。女性をはじめ抑圧された人々へのアプローチとして有効な方法とされている。日本においては,1990年代になって活発化したドメスティック・バイオレンス防止やシェルター・ムーブメントがそれに該当する実践といえる。

○解説 フェミニズム feminism
 女性が男性と比べて劣位におかれているという認識のうえにたって,その状況から女性を解放していこうとする思想・運動の総称である。
 フェミニズムは,ヨーロッパとアメリカで広がった自由と平等を求める啓蒙思想や運動のなかで芽生えたが,通常二つの時代に分けられる。一つは19世紀から20世紀前半の第一波フェミニズムで,アメリカやイギリスで婦人参政権運動に携わった女性たちのなかから生まれた。
 もう一つは1960年代以降の第二波フェミニズムである。アメリカの中産階級の白人女性たちが,家庭という「私領域」に閉じこめられていることを告発し,制度や意識の変革を要求したことから生まれ,発展した。第一波の運動を支えた理論として,リベラル・フェミニズム,社会主義フェミニズムが,第二波においては,ラディカル・フェミニズム,マルクス主義フェミニズムが,その後さらにエコロジカル・フェミニズム,ポストモダン・フェミニズムなどのフェミニズム理論が形成された。

<レジュメ・後半に続く>


*前回講義・レジュメ・練習問題 下記をクリック
社会福祉士受験支援講座・教員日記 : 相談援助の理論と方法 第43回講義 レジュメ<前半>11/08*社会福祉士養成科*エンパワメントアプローチ
社会福祉士受験支援講座・教員日記 : 相談援助の理論と方法 第43回講義 レジュメ<後半>11/08*ナラティブアプローチ*社会福祉士養成科
社会福祉士受験支援講座・教員日記 : 相談援助の理論と方法 練習問題 11/08*社会福祉士養成科・夜間部


日本福祉教育専門学校 社会福祉士養成学科
社会福祉士及び介護福祉士法


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<補足解説>
○解説:性差別
 性差に起因する差別であるが,「女性差別」と同義語として使われる性差別は,個人の能力によるのではなく,固定化された性役割や慣習を原因として行われる。
まず問題とされたのは,法的な性差別であった。女性の参政権や財産権などが男性とは異なって,法的に認められていないか,制限されていたからである。19世紀末から20世紀初めにかけて起こった第一波フェミニズムはこれを問題としたのだった。
ついで問題とされた性差別は,男性には「世帯主」として有償労働が,女性には無償の家事労働が割り当てられること,また文化や慣習のなかに存在する性差別が女性を従属的な地位に固定化していることであった。1960年代以降の第二波フェミニズムはこのような公私の領域における性差別を問題にしたのだった。
日本の性差別の特性としては,上記のような性差別に加えて「家族観」や「母親意識」が他の先進工業国と比べて強く,公私において性別役割分業を固定化する働きをしていることにある。


○ジェンダー gender
 1960年代以降の第二波フェミニズムのなかで,フェミニズム理論の中心的概念の一つとして広く使われるようになったことばである。それ以前にはジェンダーという用語は,たんに性別を表すセックスという語の同義語,あるいは文法における名詞の性,「男性」「女性」「性」を表すことばにすぎなかったが,「社会的・文化的性別」を表す用語として使われるようになった。ジェンダーにこのような意味を与えた研究者としては,心理学ではジョン・マネー(Money, J.)が,社会学ではアン・オークレー(Oakley, A.)があげられる。「生物学的性別」を表すセックスと区別した,「文化的・社会的性別」を表すジェンダーを持ち込むことの意味は,今まで自然的なものとされ,したがって変えることのできないものとされていた性差を相対化することができるからである。もし性差が自然的なものではなく,社会的,文化的,歴史的につくられたものであるならば,それは「宿命」とは違って変えることができるはずである。このようにジェンダーという概念は,性差を「生物学的宿命」から引き離し,男女の役割分業の変革を語ることを可能にすることばとして,フェミニズムのなかで頻繁に使用されるようになった。
 しかし一方で,ジェンダーということばは,「中立的」で客観的な響きがあるため,フェミニズムの政治性を排除する意味で盛んに使われたという経過もある。日本では主として政府や自治体の女性政策のなかで積極的に使用されている。しだいにジェンダー概念は,さまざまな意味合いをもち,多様な使われ方をするようになる。江原由美子の解説によると,それらは,①セックスとは異なる性別の二元論的把握,②「普遍的」な「知」(歴史・文化・科学等)とされていたものに対抗して,その性別性を主張するフェミニスト的世界観,さらに①と②の発展のうえに,③性別という軸をいくつかの軸の一つとしておく社会理論,と整理されている。日本の場合,ジェンダーの使用法をめぐって混乱が生じているが(例えば,「ジェンダー・フリー」と「ジェンダーの視点」はまったく異なる使用法である),それは以下のような理由による。上記の分類によると,①においてはジェンダーは,「性差を強調する観念や意識」として把握され,その批判的乗り越えという文脈において論じられるのに対し,②においてはジェンダーは,むしろ分析視角として,研究主題の問題としてその重要性を主張するような文脈において論じられる。つまり,①の概念に基づいては,「ジェンダー・フリー」「ジェンダー中立的な」が,②の概念に基づいては「ジェンダーを無視しない」「ジェンダーの視点/ジェンダー・パースペクティブ」として使われるからである。しかし,ジェンダーを「性別」ではなく,②または③の「性差に関する知」あるいは「性別秩序」として捉えるという方向から,フェミニズムのなかでは「ジェンダーの視点を持ち込む/ジェンダー・パースペクティブ」という使い方をされることが多い。しかし,内閣府男女共同参画局,および各地方自治体の男女共同参画室等では,「ジェンダー・フリー」「ジェンダーに敏感な視点」と表現している。

○家事労働
 家庭内の調理・洗濯・掃除などの家事作業,育児・看護・介護などの家族員の世話,および家庭管理にかかわる労働のこと。市場の生産活動に対置する消費活動とされていたが,1960年代のフェミニズム以降,自己や世帯員の消費のための財やサービスを生産する,生命や労働力の(再)生産にかかわる労働と位置づけられた。家事労働は主に,資本主義経済では無償労働,近代家族では女性の役割とされるが,その社会化もみられる。

○福祉フェミニズム Welfare Feminism
 20世紀初頭のイギリスで台頭した,主婦や母親に対する社会福祉の充実を求めるフェミニストの運動。福祉フェミニズムは,当時の主流であったリベラル・フェミニズムが公的領域における男女の平等(特に参政権を獲得して政治の領域に参加すること)を主張することと異なり,女性が男性とは異なっていることを前提とし,母親や主婦としての女性の立場を尊重し保護することを主張した。その中心的人物はラズボーン(Rathbone, E.)であり,「母親基金」(子育てに対する国家の手当)を要求し,1917年にフェミニストと労働党員からなる「家族基金委員会」を設立した。

○フェミニスト・セラピー feminist therapy
 1970年代以降,女性解放運動の視点にたった「女性による,女性のための心理療法」。フェミニスト・セラピーは,問題を性差別による女性の政治的・社会的地位の影響を考慮して捉える。問題の多くはすべての女性に共通しており,個人の無能力のためではないということを認識させ,抑制から解放させようとする。セラピストと来談者は対等な関係であるという考えに基づいており,性役割観や社会的抑制にとらわれずに自分自身をよく理解することを基本におく。
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by yrx04167 | 2010-11-13 09:42 | Comments(0)