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低所得者に対する支援と生活保護 要点9 最低生活費、絶対的貧困、貧困線、マルサス 人口の原理とは

低所得者に対する支援と生活保護制度
 重要ポイント9

<社会福祉士・精神保健福祉士国家試験受験対策夏期講習 共通科目>
 第26回社会福祉士試験対策・今日覚えるポイント


◆生活扶助基準の改定方式の変遷
*最低生活費とは

・最低限度の生活を営むのに必要な生活費のことであり,生存ぎりぎりの水準と生活を再生産できる水準,そして人並みの生活様式や社会保障・社会福祉制度などを享受できる水準のいずれを「最低生活基準」(minimum standard of living)として採用するかによって,その金額は変わってくる。

 最低生活費は,マーケット・バスケット方式やエンゲル方式などの算定方式を用いて算出され,公的扶助の基準の設定の参考にされてきた。

(1) 標準生計費方式(昭和21年~22年)
*当時の経済安定本部が定めた世帯人員別の標準生計費を基に算出し、生活扶助基準とする方式。

(2) マーケットバスケット方式・昭和23~35
*最低生活を営むために必要な飲食物費や衣類、家具什器、入浴料といった個々の品目を一つ一つ積み上げて最低生活費を算出する方式。

・イギリスの貧困研究者のラウントリーによって考案された方法に起源をもつ。
 わが国では,旧生活保護法時代の1948年の第8次改訂時に,同年2月に実施した被保護者全国一斉調査を参考に,標準5人世帯の最低生活費の基準として用いられた。標準家族の生活費は,国立栄養研究所の栄養要求量をもとに飲食物費を決定し,そのほかの住居,被服,保健衛生,雑費を必要費目としてその金額を合計し算定したものである。

(3) エンゲル方式(昭和36年~39年)
*栄養審議会の答申に基づく栄養所要量を満たし得る食品を理論的に積み上げて計算し、別に低所得世帯の実態調査から、この飲食物費を支出している世帯のエンゲル係数の理論値を求め、これから逆算して総生活費を算出する方式。
・1961年から導入された最低生活費の算定方式。総収入のなかで飲食物費の割合を示すエンゲル係数を最低生活費の算定に応用したものである。方法は,マーケット・バスケット方式と同様に栄養審議会の標準的栄養所要量を満たす飲食物費を理論計算し,低所得者の家計調査から同様の支出の世帯のエンゲル係数で割り戻して生活費を算定する。

(4) 格差縮小方式(昭和40年~58年)
*一般国民の消費水準の伸び率以上に生活扶助基準を引き上げ、結果的に一般国民と被保護世帯との消費水準の格差を縮小させようとする方式。
・1964年,中央社会福祉審議会生活保護専門分科会の中間報告において,一般世帯と生活保護世帯の消費支出の格差を縮小する必要性が示され,エンゲル方式に代わって新たに導入された。格差縮小割合の算出方法は,経済企画庁(当時)の個人消費支出の予測(民間最終消費支出の伸び率)を参考に,これに格差縮小分を加えて生活扶助基準の改定率を決定した。

(5) 水準均衡方式(昭和59年~現在)
*当時の生活扶助基準が、一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当であるとの評価を踏まえ、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費実態との調整を図るという方式。

・格差縮小方式による生活扶助基準の算定は,「一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達した」という見解を示した中央社会福祉審議会の意見具申により,1984年に新たな最低生活費の算定方式として水準均衡方式が導入された。
 具体的には,当該年度と前年度までに想定される一般国民の消費動向(政府の民間最終消費支出)をもとに,一般世帯との均衡状態を保つための調整を行い,これをもとに生活扶助基準の改定率を決めようとする方式である。

 最低生活水準とはいかなるものか,という科学的合理的究明が弱まり,たとえば現在の水準均衡方式も,なぜ一般世帯の消費水準の約66%程度で最低生活水準が維持されるのかということも課題として残っている。
*エンゲル方式以降の算定方式は,いずれも立案者の裁量の余地を認めたものとなっている。しかもこのようなことを可能にした理由は,生活保護基準が厚生大臣の告示となっているために国会での審議もされないから,比較的簡単に算定方式の変更ができたことに求めることができる。

<用語解説>
*貧困

 貧困という用語は,人々の生活における何らかの「受け入れがたい欠乏」を意味する(後述)

*貧困線
 貧困の把握や測定に用いる基準の一つである(後述)

* ラウントリーRowntree, Benjamin Seebohm (1871-1954)
 イギリスの社会調査家(後述)

*第一次貧困/第二次貧
 ラウントリーが,『貧乏――地方都市生活の研究』(1901)で,貧困層の量だけでなく質を把握するために用いた,貧困の区分(後述)

*絶対的貧
 ラウントリーの貧困線のような,衣食住などの基本的なニーズを中心に考えた貧困の基準をさす(後述)

*相対的剥
 貧困を人並みの生活に近い水準で認識するためにタウンゼントが考えた概念。

<確認問題>
問題 次のイギリスにおける社会福祉・社会保障制度の発展に関する諸説のうち,誤っているものを一つ選びなさい


1 マルサス(Malthus,T.)は,『人口の原理』(初版)において,貧困救済は救貧費を増大させるだけでなく家族の絆や労働者の自助努力を損ねさせるとして,救貧法に反対した。
2 ラウントリー(Rowntree,B.)は,『貧困:都市生活の研究』において,ヨーク市の全人口の約3割が貧困状態にあることを明らかにし,貧困問題を社会問題として認識させる契機の一つとなった。
3 シドニー・ウエッブ(Webb,S.)とべアトリス・ウエッブ(Webb,B.)は,『産業民主制論』において,産業社会の発展のため,社会福祉に関する国家の関与,介入を否定し,企業の社会貢献,市民のボランティア活動により福祉国家を形成すべきだと提唱した。
4 ケインズ(Keynes,J.)は,『雇用・利子及び貨幣の一般理論』において,経済市場に国家が積極的に介入を図るべきだという考え方に基づき,完全雇用政策などを提案した。
5 べヴァリッジ(Beveridge,W.)は,『社会保険及び関連サービス』に関する報告において,窮乏(Want),疾病(Disease),無知(Ignorance),不潔(Squalor),無為(Idleness)という5つの巨大な悪への攻撃に対する社会保障政策を構想した。

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解答と解説:マルサス、ウェッブ夫妻、救貧法に関する王立委員会報告、貧困線、ラウントリー、
第一次貧困/第二次貧困、絶対的貧困、相対的剥奪とは 下記をクリック




答 3

*ウェッブ夫妻 Webb, Sidney (1859-1947) / Webb, Beatrice (1858-1943)
 イギリスの社会主義者。フェビアン協会のメンバーとして活動し,労働組合運動や消費組合運動の発展と議会制民主主義に基づく社会正義をめざした。最低賃金,労働条件の改善や,住宅,医療,教育,年金などを包括するナショナル・ミニマムの保障を説いた。また,救貧法改革王立委員会のメンバーとして少数派報告をまとめ,第二次世界大戦後の福祉国家の誕生とその理論的な発展にも大きな影響を与えた。[主著] The History of Trade Unionism, 1894 ; Industrial Democracy, 1897.

*救貧法に関する王立委員会報告 Report of the Royal Commission on the Poor Law
 1834年救貧法の見直しのために1905年に保守党内閣(イギリス)が設置した委員会が1909年に提出した報告書。委員会は1834年法による救済委員会,教区連合,一般混合の労役場(ワークハウス),劣等処遇等の弊害を変更する必要性では一致した。しかし改正方法では,救貧法の枠内の微温的改良を主張する多数派と救貧法の解体をめざす少数派が鋭く対立した。報告は両論併記したため,当時の政治状況ともあいまって具体的改正に結実しなかったが,ニーズに即した普遍的サービス保障,窮乏の予防の組織化によるナショナル・ミニマム保障などの少数派(ウェッブ等)の主張は,その後のイギリス社会保障の確立に多大な影響を与えた。

*マルサス Malthus, Thomas Robert (1766-1834)
 イギリスの経済学者。『人口論』(An Essay on the Principle of Population, 1798)の著者。人口は幾何級数的に増加するが食糧は算術級数的にしか増加できないので,積極的抑制(死亡率上昇)を回避して人口と食糧のバランスを保つには,予防的抑制(禁欲と晩婚による出生率抑制)を行うべきだと主張した。マルサスは,適当な人口圧力は人々を勤勉にさせて社会経済の進歩を促すと考えていたために産児制限に反対であったが,後にマルサスの理論を土台としつつも人口抑制方法には実効のある産児制限を進めるべきとする考え方が,新マルサス主義とよばれて広まった。

*貧困
 貧困という用語は,人々の生活における何らかの「受け入れがたい欠乏」を意味している。その「欠乏」は,衣食住などの物的な財だけでなく,心身の健康,社会関係,生活機会等をも含んで議論されてきた。とはいえ,具体的に何の「欠乏」をもって貧困とするのか,あるいはどの程度の「欠乏」が「受け入れがたい」問題かについては,必ずしも合意があるわけではない。貧困の定義やその計測基準は,これを問題にしようとする社会そのもの,またその解決のための社会政策や社会福祉の諸制度のあり方と深く関わりながら,いくつかの変遷をとげてきている。
 歴史的にみれば,貧困の把握は,スラムのような劣悪な環境のもとで衣食にも欠いた状態で暮らす人々を「貧民」として認識するところから出発している。貧困は明らかに普通の人々の生活とは全く異質のものとして記述され,また個人的原因や不運の問題として扱われた。しかし,経済社会の発展のなかで,貧困は普通の労働者や市民の生活のなかにも広く存在するものとして,主に生活水準や所得によって把握されるようになった。19世紀末から20世紀にかけて行われたイギリスのC. ブースやラウントリーの貧困調査などがその例である。これらの調査は貧困と失業や職業階層,あるいはライフサイクルとの関連を明らかにし,貧困を予防する社会保障制度の整備を促した。
 この初期の社会調査において,ラウントリーは栄養学を基礎に,不熟練労働者のたんなる肉体的能率を保持するに必要な最低生活費を算定し,この貧困線によって客観的・科学的な貧困把握や予想が可能であることを示した。しかし,福祉国家の登場が貧困問題を解決していないことに着目したタウンゼントは,ラウントリーの生存基準を絶対的貧困論としてしりぞけ,貧困は社会的・相対的なものであることを強調した。すなわち彼は生活を営む前提にある社会の慣習的な生活様式を重視し,この生活様式に基づいた生活が営めない状態を相対的剥奪としたうえで,相対的剥奪が重層的に出現するような生活資源の欠乏状態を貧困と定義した。このタウンゼントの絶対的貧困批判に対しては,センによる途上国の貧困の現実を踏まえた批判がある。センは潜在能力(ケイパビリティ)という概念によって,貧困は他者との比較によってではなく絶対的に把握しうると主張し,普遍的な貧困対策の必要を示唆した。
 貧困の別のアプローチは貧困の動態への注目である。江口英一は,社会階層序列全体のなかで人々が「貧困になる」プロセスに焦点をあて,直接貧困層を生み出す母体となっている不安定就労階層の存在を特に問題とした。近年のヨーロッパでは,EUの統合政策との関連で社会的排除(social exclusion)という用語に関心が集まっているが,これも人々の統合と排除の動態過程から貧困の今日的な形態と解決の方策を探ろうとするものである。
 さらに,貧困を客体として把握するだけでなく,貧困にある人々の考えや行為を問題にする場合もある。ルイス(Lewis, O.)は貧困が一つの生活様式として世代継承されていくさまを「貧困の文化」として描いたが,貧困にある人々の考えや行為が貧困を固定化,あるいは継承させていく側面への注目も少なくない。なお最近では,社会から切り離された人々の貧困がアンダークラスとして認識されるなど,かつての「貧民」把握の再現を思わせる傾向も出現している。

*貧困線
 貧困の把握や測定に用いる基準の一つであり,収入や支出が「一定の水準」(貧困線)を下回る世帯や個人は貧困であるとみなされる。ラウントリーは,食物と家賃,衣服や燃料などの家庭雑費という費目を用いて,たんなる肉体的能率を維持するために必要な最低限の収入を推算して,貧困線を設定した。福祉国家の生成後は,政府が一定の収入を下回った人を貧困とみなし,公的扶助を適用するという「公的な貧困線」も成立した。

* ラウントリーRowntree, Benjamin Seebohm (1871-1954)
 イギリスの社会調査家。ローントリーとも表記される。ヨーク市で貧困線と最低生活費の測定を行うとともに,労働者のライフサイクルと生活水準の間に周期的な変動があることを明らかにした。また,生活保護基準算定のマーケット・バスケット方式の考案者として,わが国にも影響を与えた。[主著] Poverty : A Study of Town Life, 1901 ; Poverty and Progress, 1941 ; Poverty and the Welfare State, 1951.

*第一次貧困/第二次貧困
 ラウントリーが,『貧乏――地方都市生活の研究』(1901)で,貧困層の量だけでなく質を把握するために用いた,貧困の区分。第一次貧困とは,世帯の総収入が,家族員のたんなる肉体的能率を維持するための最小限度にも足りないほどの貧困であり,第二次貧困とはその収入の一部が他の費途に転用されないかぎり,たんなる肉体的能率を保持できる程度の貧困をさす。他の費途に転用することもまた「生活」であることが含意されている。

*絶対的貧困
 ラウントリーの貧困線のような,衣食住などの基本的なニーズを中心に考えた貧困の基準をさす。この基準によると産業化された国々で貧困は減少したようにみえるが,タウンゼントは,そのような生存ぎりぎりの(subsistence)水準ではなく,社会的・文化的な要素を加味した相対的な水準を用いて,今日の貧困を測定すべきであると主張した。ただしラウントリーの貧困線にも社会的な費目が含まれており,このような二分法への批判もある。

*相対的剥奪
 貧困を人並みの生活に近い水準で認識するためにタウンゼントが考えた概念。この概念によると,個人,家族,諸集団が,その所属する社会で慣習になっている,あるいは少なくとも広く奨励または是認されている種類の食事をとったり,社会的諸活動に参加したりするための,あるいは生活の必要諸条件やアメニティに必要な生活資源を欠いているとき,貧困であるとされるが,実証に用いた指標の一部が恣意的であるという批判もある。
by yrx04167 | 2013-08-24 23:36 | Comments(0)