簡易宿泊所街 寿町の生活保護受給者対象の精神科デイケア 実践 相談援助の理論 行動変容アプローチ

生活保護受給者、簡易宿泊所街「寿町」の精神障害者を対象とした精神科デイケア、グループワーク実践

 当ブログ筆者の論文
『生活保護受給者を対象としたグループワーク-ドヤ街「寿町」における実践報告と考察-』
日本福祉教育専門学校研修紀要第21巻1号 39頁から52頁 2013年5月


抜粋
 精神科診療所に併設された精神科デイケアという形態のグループワークにより、園芸・緑化、調理等の作業、田植や稲刈り等の農作業、造形や絵画、書道の創作活動、ゲートボール等のスポーツなどのプログラムが、筆者も参画し1999年から実施された。簡易宿泊所街における、生活保護受給者を対象としたグループワーク、精神科デイケアの実践の報告と考察である。

Ⅲ.寿町のグループワークの手法-実践からの抽出
1.グループワークの援助の視点
 デイケアのグループワーク実践から導き出される、支援を有効なものとするために必要であった視点は、次の7点である。
(1) 引きこもりを脱し、生活の拡充を図る支援
 調理や外出、その他のプログラムが、個々の利用者の生活のリハーサルとなって、生活の幅、生活圏を広げることを支援する方向性である。利用者は、デイケア終了後に簡易宿泊所の自室に帰れば、引きこもる場合が多い。グループワークを通じて、人間関係を持つことや、プログラムにより様々な事柄に取り組むことにおいて、新たな経験を提供したと考えられる。また、利用者の自信を強化し、自尊感情を支え、生活の質の向上も目指した。

(2) 各種作業における承認の機会
 個々の利用者の、強み、能力、意欲を持って取り組める作業を見出し、承認する場面をつくることである。利用者自身の力で出来ることは取り組みを促し、職員は側面から支援する姿勢である。取り組みの結果は、率直に受け止め、次の方策を考える。例えば、飲食業等調理に関連する職歴を持つ利用者は、昼食の調理において活躍する場面をつくり、能力を引き出しつつ本人のエンパワメントを推進する。例えば、公園の緑化作業や農作業においては、穴掘り作業等は、土木・建設の元プロフェッショナル達の独壇場である。

(3) グループワークと個別援助の併用
 統合失調症や覚醒剤依存の後遺症、アルコール依存症等、症状や生活が不安定な利用者等に対して、情緒的な安定を図るために、面接や簡易宿泊所への訪問などの個別援助を、必要に応じ、グループワークに併せて実施することである。また、健康や生活の危機の予防も図る。事例として、他者からの批判や攻撃を恐れ、周囲の視線が常に気になって通所が困難になり、個別のフォローを必要とした利用者もいた。加えて、利用者の危機に際しては、主治医等の医療スタッフと共同での訪問等の対応や、福祉事務所の担当ケースワーカーとの連携を行った。

(4) 創作活動による自己表現の機会の提供
 造形や書道等の創作活動プログラムによって、自己表現を促すことである。デイケアの利用者のなかには、全ての創作活動に対して「不器用だから」等の苦手意識を抱えていたり、アートに関心が皆無、集中が続かない人も少なくなかった。利用者の取り組みを職員が個別に励まし、優れている点を誉め、自己表現を豊かにし、その技能を高めていく実践を行った。

(5) 社会資源の適切な利用の為の情報提供
 デイケアの利用者は、社会資源を含む様々な情報に対し、誤解を持っていたり、噂に左右されていることが少なくない。職員が情報を提供し、もしくは利用者相互に情報の共有化を図って、正しい理解を持つことが、資源の適切な活用にも繋がる。

(6)柔軟な参加形態と能力の向上
 個々の利用者の心身の健康状態や障害の程度、グループへの抵抗に応じて、参加するよう個別に働きかける。全日程参加の利用者が多数ではあるが、曜日を定めたり、特定のプログラムのみの参加も認めている。個別の目標やスケジュールを、利用者と職員が共同で設定し、障害が重くても参加できる活動を考える。なお、利用者には、主体的に参加するよう励まし、また能力を更に高めるため、やさしい内容から難しい内容へと段階的に目標達成へと進む働きかけを行う。

(7)ドヤ街の生活と文化に合ったプログラムの立案
 次の様な留意点が必要となる。プログラムは、利用者の持つ文化、関心、その生活を基に立案されなければならない。しかし、寿町の住民は、これらの幅が狭い傾向がある。あまりに迎合すると、利用者に新たな経験や生活の拡充をもたらすことが困難となり、マンネリ化に陥る。利用者の生活からかけ離れたものは、利用者の参加意欲や満足度、グループの求心力の低下に繋がる。これらのバランスが求められる。また、寿町故の特殊なニーズとして、 略  行き先の選定時に配慮を要する。
 略
 利用者とグループに望ましい変化と、その動機付け、グループ内外の相互作用の促進が図られた。利用者は、プログラムを経験することで、自らの新たな側面を見出し、職員からエンパワーされていった。また、グループのまとまりや共同性、協力、責任、社会との関わり等を生み出した。これらは、個々の利用者の情緒的な安定、意欲の向上、地域生活の維持に繋がっていくものであったと言えよう。
 略
 「寿町」 地域とは、横浜市中区の簡易宿泊所が密集した「ドヤ街」 である。現在は、高齢者や障害者等の生活保護受給者が単身で集住する「福祉の町」である。
 当診療所は、精神科・内科・整形外科等の医療機関であり、通院する殆どの患者が、寿町の簡易宿泊所に住む生活保護受給者である。
 併設の精神科デイケア(以降、デイケアと表記)は、利用者のほぼ全員が、寿町の簡易宿泊所に単身で居住する精神障害者であり、生活保護を受給している。
 利用者の疾患は、アルコール依存症、薬物精神病(依存症、主に覚醒剤)、統合失調症等の多岐にわたる。
 各利用者の精神科リハビリテーションとしての課題は、断酒の継続、心身の健康と日常生活の維持、借金・ギャンブル問題の改善、人間関係やコミュニケーションの向上、就労等であり、年齢層と合わせて幅広い。
 現在、デイケアは火曜日から土曜日の午前10 時から午後4 時まで、午前は共同調理と会食、午後は公園の緑化・園芸作業、造形と書道の創作活動、音楽・茶道・エアロビ・ヨガの教室、卓球等のスポーツ、散歩や映画鑑賞などのプログラムを実施している。
 また、季節毎の農作業等の宿泊プログラム、運動会、餅つきなどの年間行事を実施している。
 これまでのデイケアにおける実践の成果としては、統合失調症で簡易宿泊所に閉じこもっていた利用者が、デイケアに欠かさず通所し生活も安定した事例や、アルコール依存症から回復した事例等が挙げられる。
 反面、毎日通所していたが自室で孤独死、自殺を迎えた利用者も目立つ。
 筆者は、準備段階を含めて1999年3月から現在まで、かつては常勤職員、現在は非常勤職員として、この診療所とデイケアにおける実践を継続中である。
(註)
 簡易宿泊所とは、旅館業法における4種(ホテル、旅館、簡易宿所、下宿)の旅館営業許可業種のうち
のひとつである。
 ドヤ街は他に、「山谷」や、「釜ヶ崎」が現存する。山谷は、東京都台東区と荒川区にまたがる、「泪橋交差点」を中心としたドヤ街である。釜ヶ崎は、大阪市西成区萩之茶屋周辺の簡易宿泊所街・寄せ場である。1966年の「第五次釜ヶ崎暴動」以降は、行政や大阪府警により「あいりん地区」の呼称が用いられるようになった。


 以上、抜粋 

<当ブログ筆者の論文 最新>
当ブログ筆者の論文 最新 「福祉施設職員のストレスケア サポーティブ研修プログラムの開発」
日本福祉教育専門学校 研究紀要第23巻1号 37頁から55頁 平成27年4月


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<関連資料 ブログ記事バックナンバー>
貧困・低所得・生活保護 : 社会福祉士受験支援講座・教員日記



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社会福祉士受験対策web夏期講習 相談援助の理論と方法編 第5回
6節 行動変容アプローチ
○概要:行動変容アプローチ(行動主義モデル) E.トーマスら  1967年

 この行動主義モデルでは,クライエントの行動変容を目指して援助が行われる。
 つまり、主には「特定の好ましくない行動の明確化及び修正」が、支援の焦点となる。
 利用者の問題行動の原因や動機にさかのぼることをせず、問題行動そのものを取り上げて、特定の問題行動の変容を目標に働きかけるアプローチである。ケースワークに、学習理論、行動療法を導入した。あくまで目的は問題行動それ自体の解消、修正であって、問題行動の原因や動機を解消、修正することや、クライエントの意識や思考の変容は直接の目的ではない。

 行動療法とは、学習理論を基礎とし,すべての行動は経験を通して学習されたものであると考える治療方法。

*解説:学習理論
 人の行動は学習によって形成され、また、その改善も学習によって達成されるとする理論である。

1 起源と基盤理論 テキストP159
・行動変容(行動療法)アプローチとも呼ばれる。行動療法をソーシャルワークに導入した。
・1960年代後半、精神分析や自我心理学の影響を受けたソーシャルワークへの批判から出発。
・基盤は、学習理論であり、リスボンデント条件づけ等、認知行動療法が折衷・統合的に導入されている。

2 行動変容アプローチを理解するためのキーワード
*学習理論

 広義には、人間の「学習」の成立過程を説明する理論を意味する。連合説は、刺激とそれへの反応の連合=学習である。認知説は、人間の環境に対する認知構造=学習である。

*オペラント条件づけ
・行動の結果の如何により、その行動の生起頻度が変容される過程。正と負、強化と罰の両側面をもつ。トークンエコノミー法などの具体的方法を用いる。

○補足:オペラント条件づけ
 レスポンデント反応
 古典的条件づけ
 オペラント反応
 スキナーの実験
 強化子 略

*モデリング
 人間の行動は、他者の行動を観察し、模倣により学習する=社会学習理論に基づき、学習すべき行動を示す具体的方法。ロールプレイング法などが活用される。

○補足:モデリング(観察学習)
 他者の行動を観察することによって学習が成立することをモデリング(観察学習)と呼ぶ。 略

3 適用対象・適用課題 テキストP160
・多様な範囲が支援対象となり得る。不安や抑うつ、対人関係上の問題、暴力、問題行動などの課題に適応可能である。

4 支援焦点
・具体的に、望ましい行動を増加させ、望ましくない行動を減少させることである。

5 支援展開
・行動変容アプローチの展開過程-テキストP161図参照。
アセスメントの着眼点(方法)、目標設定や介入技法、また評価方法に特徴がある。

*補足:行動変容アプローチ
 学習理論をケースワーク理論に導入したもので、条件反射の消去あるいは強化によって特定の症状の解決を図るものである。利用者の問題行動の原因や動機にさかのぼることをせず、問題行動そのものに焦点を置き、変化すべき行動を観察することによって、特定の問題行動の変容を目標に働きかけ(条件反射の消去か強化)、問題行動を修正しようとする考え方をいう。
行動修正モデルにおいては、援助者は利用者の行動の原因を突き止めようとはしないし、なぜそうするのかも探ろうとはしない。問題行動の社会生活史をとることは援助者の目的ではないとされている。


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by yrx04167 | 2015-09-12 17:21 | Comments(0)