エンパワメントアプローチ ソロモンの定義とは 生活保護受給者 生活困窮者コミュニケーション問題と支援法

生活保護受給者、簡易宿泊所街「寿町」の精神障害者を対象とした精神科デイケア、グループワーク実践
 当ブログ筆者の論文
 『生活保護受給者を対象としたグループワーク-ドヤ街「寿町」における実践報告と考察-』
 日本福祉教育専門学校研修紀要第21巻1号 39頁から52頁 2013年5月

2.生活保護受給者、精神障害者や依存症者対象のグループワークの援助関係
(1)生活保護受給者、生活困窮者の人間関係の問題

 生活保護受給者や生活困窮者の人間関係、コミュニケーションには特性と、大きな問題がある。後述するように、過去の「縦の人間関係」の影響から、グループワークにおいても相互不信に陥り利用者間で対等な関わりを構築出来なかったり、自分よりも弱い対象を排除する「内なる排除」を行ってしまう傾向も見られる。
 貧困問題の当事者の社会的孤立を緩和し、孤独死を予防するためのは、繋がりを創ることを支援することが不可欠である。どのような方法で、関わりを媒介することをなし得るのか。ソーシャルワークにおいては、グループワークによって、全人的な交流を持つ新たな経験と場の提供を実施することが可能である。コミュニケーションが意欲を喚起し、生活の質の向上と、やがて地域における相互支援へと成長することを促進する。
 当ブログ筆者の、1999年から今日に至る生活保護受給者対象のグループワーク、精神科デイケアの実践の報告と考察である。

(2)貧困問題当事者の「内なる排除」 弱いものを叩く「縦の人間関係」からのオルタナティブへ
 簡易宿泊所街「寿町」において、生活保護受給中の精神障害者、アルコールや覚醒剤依存症者等が日々通所するこの精神科デイケアの利用者は、コミュニケーションが不得手な人が多く、元来、他の利用者にはあまり関心を持たない。人間関係そのものへの関心が希薄とも言えよう。また、利用者には、児童養護施設等で育った、もしくは精神病院への長期入院、「暴走族」等のアウトサイダーの組織に関係していた、刑務所の服役等を経て、簡易宿泊所街とこのデイケアの通所に至っている場合もある。
 つまり、このような生活歴を経て、人間関係の持ち方が独特なものとなっている。過去には、管理や支配等、主に「縦の人間関係」のなかで生きてきたというのも過言ではないだろう。
 当然ながら、これら利用者者対象のグループワーク、デイケアにおいては、支配と被支配、利用する・されるではない、利用者と職員間では、対等な専門的援助関係を、利用者間では水平な相互支援の繋がりを築いていくことを目指している。

(3)生活保護受給者対象グループワークの援助技法

 利用者の古い人間関係のあり方の影響を、職員側は分析しつつ、新たな関わりの形態や協調を、言動により、時にはモデルとなり、方向を示す必要がある。デイケアでは、日中の6時間程を共に過ごし、調理や作業等の様々な恊働の場面があること、加えて多様な職員の、それぞれの専門性、個性を活用した働きかけによって可能となったと考えられる。
 利用者と職員の関わりにおいて、専門的な距離感を持ちながらも、情緒的に関わろうとする姿勢が無ければ、個別の援助関係も、ましてグループワークも成立しない。しかし、寿町の利用者の中には、職員に対する過度の依存や独占欲を持ち、適切な関わりを持つことが困難な利用者もいる。時には、職員を独占した利用者への、他の利用者からの嫉妬、羨望に繋がることがある。援助関係を確立するために、職員は過度に巻き込まれないことと、客観的かつ全人的な視点が不可欠である。
 また、利用者の多くは、「SOS」、支援の要請を素直に発しづらい特性がある。支援を必要としていても「放っといてくれ」等の、言語による表面的な情報と、裏側に潜む感情や真のメッセージが異なる。このような場面では、利用者の言語だけではなく、表情や態度などの非言語にも注目し、理解を基に働きかける必要がある。

(4)処遇困難事例へのチームアプローチ 利用者の「嘘」と暴力

 また、稀に利用者は、職員に不調や薬の紛失を訴え、薬の処方を要求する等、職員を利用しようとすることがある。また、一職員が許可した等の嘘をついて、職員を操作しようとする場合もある。職員チーム内での情報の共有により、適切に対処しなければならない。
 加えて、利用者の中には、ルールを無視して食事を求めたり、自分の希望が通らないと、声をあらげる場合もある。実際に、職員に対して「ババア」等と暴言を吐いたり、職員に物品を投げつけた利用者もいた。必要に応じて、複数の職員での対応等、毅然とした姿勢が必要であろう。また、ルールや許容範囲等を各職員が共通認識を持たなければならない。利用者も個々の職員とチームを観察し、職員側のルール等の解釈の不一致、あいまいさ、チームワークの隙を突くことがある。

(5) 観察による幻聴等の精神症状悪化の早期発見 覚醒剤依存症からの回復
 多様な個性を持つ利用者を注意深く観察しつつ、個別に関わることによって、各個人の独自性を認識することが必要とされる。利用者が参加するグループワークの基本的技術ではあるが、デイケアにおいては、心身の健康状態、睡眠や、気分障害の利用者のうつと躁の変化、生活の様子等の観察と関わりによる理解によって、症状の悪化の早期発見が可能となる。
 特に利用者の幻聴の中には「屋上から"飛び降りろ"と、男性の声で仕向けられる」といったものもあるが、危険な幻聴や妄想は、薬物依存症者に目立つ。これらに支配された言動や自殺のほのめかしに対し、本人や周囲の安全を守るために、注意を要する。
 生活困窮者の薬物依存においては、少年時代はシンナーを乱用し、その後に覚醒剤を使用していた事例が目立つ。
 また、適切に服薬しているか否かを観察し、本人から聞き取り、必要に応じて、簡易宿泊所を訪問して確認する実践も行われた。

 以上、抜粋

 横浜市中区の簡易宿泊所街「寿町」の精神科診療所に併設された精神科デイケアという形態のグループワークにより、園芸・緑化、調理等の作業、田植や稲刈り等の農作業、造形や絵画、書道の創作活動、ゲートボール等のスポーツなどのプログラムが、筆者も参画し1999年から実践を開始した。
 診療所は、精神科・内科等の医療機関であり、通院する殆どの患者が、地域内の簡易宿泊所に住む生活保護受給者である。併設の精神科デイケアの利用者は、簡易宿泊所に単身で居住し、疾患は、アルコール依存症、薬物精神病(依存症、主に覚醒剤)、統合失調症等の多岐にわたる。
 各利用者の精神科リハビリテーションの課題は、断酒の継続、心身の健康と日常生活の維持、ギャンブル問題の改善、人間関係やコミュニケーションの向上、お互いに支え合う関わり、就労等であり、年齢層と合わせて幅広い。
 生活保護受給者を対象としたグループワーク、精神科デイケアの実践の報告と考察である。


<当ブログ筆者の論文 最新>
当ブログ筆者の論文 最新 「福祉施設職員のストレスケア サポーティブ研修プログラムの開発」
日本福祉教育専門学校 研究紀要第23巻1号 37頁から55頁 平成27年4月


「貧困問題と相談援助」 当ブログ筆者の講演 音声記録の一部を公開中

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社会福祉士受験対策web夏期講習 相談援助の理論と方法編 第6回
*エンパワメントアプローチ
*概要:エンパワメント

・エンパワメントの考え方は,クライエントが自ら力を回復し,自分たちを取り巻く問題状況を解決していけるようにしようというものである。
 エンパワメントでは,クライエント自身が,問題解決に必要な知識やスキルを習得することを支援する。
・エンパワメント・アプローチとは、クライエント、利用者が本来もっている力、潜在的な力、可能性に着目し、その力を引き出して積極的に利用、援助することをいう。今日、社会福祉をはじめとして、多様な領域で取り入れられている。
・人間の福利(ウェルビーイング)と社会の変革を進め,人びとのエンパワメントと解放を促していくことが,国際ソーシャルワーカー連盟の「ソーシャルワークの定義」(2000年)で唱えられている。
・ケアマネジメント実践では,利用者主体の地域生活を目指すために,エンパワメントの視点による支援が強調され,障害者福祉の分野でも障害者が地域生活を自らマネジメントできる力をつけることが重視されている。
・サレエベイ(Sallebey,D.)によれば,ストレングスとは,「人間は困難でショッキングな人生経験を軽視したり,人生の苦悩を無視したりせず,むしろこのような試練を教訓にし,耐えていく能力である復元力を基本にしている」という。

・住民が生活問題状況を自覚し,自分たちの生活をコントロールしたり,改善したりする能力の形成を目指すことは,「エンパワメント」の考え方に含まれる。
 福祉サービスを必要とする地域住民が,自らの問題への気づき,仲間づくりなどを通して,生活主体者としての自己決定能力を高めるなどのエンパワメントアプローチの手法は,地域福祉の実践にとっても有意義である。

・ エンパワメントが社会福祉、ソーシャルワークのあらゆる領域で取りいれられるようになった背景には、ソーシャルワーク理論として一般システム論やエコシステム論、ライフモデルが定着したことがある。
エンパワメントは、1960年代のアメリカにおける公民権運動やブラックパワー運動を源流とする。

*B.ソロモンによるエンパワメントの定義
・エンパワメントは、1976年にソロモンによって初めて用いられた用語である。
 「エンパワメントとは、スティグマ化されている集団の構成メンバーであることによって加えられた否定的な評価によって引き起こされたパワーの欠如状態を減らすことを目指して、クライエントもしくはクライエント・システムに対応する一連の諸活動にソーシャルワーカーが関わっていく過程である」とソロモンは定義した。

・エンパワメントは、クライエントの潜在能力や能力の強さに焦点を当てる。
 エンパワメントは、クライエント自身が問題解決の主導者であることを前提としており、ソーシャルワーカーは原則として側面的援助に徹するべきである。
 エンパワメントの視点は生活モデル(生態学的視点)の実践展開に方向性を与える側面がある。
 エンパワメントは、ミクロの個人的問題に対する心理調整と、マクロの社会構造の改革という、両者の援助に同時に関わる。
*エンパワメントは、長期にわたって社会的ケアを受けなければならない状況におかれているような高齢者、身体や精神に障害のある人々へのソーシャルワーク実践に拡大されている。
*エンパワメントにおける「パワー」は、ソーシャルワーク実践を統合していく重要な構成要素である。また、医学モデルに基づいたクライエントシステムの病理や弱さの側面を志向するあり方を脱却しつつ、クライエントの健康や強さの側面を重視する「強さ志向の視点」の必要性が強調されるようになった。

<テキスト解説>
1 起源と基盤理論 テキストP164

・17世紀の法律用語が起源と言われ、「公的な権威や法律的な権限を与えること」の意味。アメリカの公民権運動等を経て、広範に用いられ、現在は学際的用語として定着した。
・ソロモン(B.Solomon)は、『黒人へのエンパワメント 抑圧された地域社会におけるソーシャルワーク』を1976年に著した。
・ポストモダニズムの潮流に沿い、障害者運動、セルフヘルプ活動などの影響を受けた。
・ソーシャルアクションのレイノルズの思想と実践、マルシオの「コンピテンス概念」を摂取した。昨今のストレングス、リカバリーの概念等との親和性をもっている。
・国際ソーシャルワーカー連盟・ソーシャルワーク定義において、専門職の役割として明示された。
 
2 エンパワメントアプローチを理解するためのキーワード
*ポストモダニズム

・建築分野発祥の概念であり、論理性、実証性、合理性の近代主義(モダン)を否定し、脱近代を目標とする思想的潮流。
・近代を超えようとする文化・芸術運動であり、近代の合理主義的傾向を否定する考え方。もともとは、機能主義・合理主義に対置する新しい建築を意味した。
・社会学では、ポストモダン哲学の影響を強く受け、従来の部分/全体の二元論的発想、近代的自我に根ざした社会分析を離れつつも、難渋かつ抽象的な哲学論議に深入りすることなく、「主体の脱中心化」のテーマに則った経験的記述の方法論が彫琢されている。

*パワー
・人が、自律性を確保し、生活を維持のために他者と協働しつつ、自らの人生に影響を行使する力。

*パワーレスネス
・問題解決のための資源との接触が制限されていたり、知識や技術が不足している状態。

3 適用対象・適用課題 テキストP165
・障害、人種、貧困、性など、社会的マイノリティであることを理由に抑圧され、パワーレスな状態におかれてた人々と、その課題全般である。

4 支援焦点
・支援展開は、クライエント自らが、抑圧状況を認識し、自らの潜在能力に気づき、能力を高め、抱える問題に対処する。加えて、抑圧状況の要因を変革していく。

5 支援展開
・エンパワメントアプローチの具体的内容(デュボイスとミレイ)
  テキストP166表
・援助の当初より、ミクロ・メゾ・マクロの各次元への介入、環境との交互作用を意識し、複眼的視点で同時併行的に、問題・課題の解決に挑戦する。

・クライエントとの面接、社会生活技能訓練(SST)、グループワーク・自助グループ活動、アドボカシー活動、ソーシャルアクションなどの手法が活用されている。

危機介入アプローチ 悲嘆、ストレスマネジメントとは 相談援助理論 ソーシャルインクルージョンと民間支援

簡易宿泊所街 寿町の生活保護受給者対象の精神科デイケア 実践 相談援助の理論 行動変容アプローチ


新刊 当ブログ筆者が試験問題解説を執筆 
「2016社会福祉士国家試験過去問解説集 第25回─第27回全問完全解説」日本社会福祉士養成校協会編集 ISBN 978-4-8058-5161-6
 中央法規出版 2015年5月10日発行

 450問を選択肢ごとに詳しく解説し、科目別ポイントを収載。第27回を含む過去3年分の国家試験全問題を掲載した問題集。過去2年分も最新の制度や数値にアップデートし、次回試験に完全対応。基本の理解、実力試し、傾向対策、総復習で着実に学習効果を発揮。 中央法規出版



<ブログ閲覧中の皆様>
相談援助職とは 社会福祉士の仕事の実際 説明会 相談会 一般公開 参加無料
10/15(木)18:30から20:00
会場 日本福祉教育専門学校 高田校舎

社会福祉士の主要な職務である、相談援助の仕事の具体的な内容についてお話しする説明会。また、社会福祉士の仕事の実際など、皆様の疑問に答えます。個別相談も歓迎です。
 子ども福祉、医療ソーシャルワーク、コミュニティ福祉などの多様な分野で人間を支援する社会福祉士の仕事の実際を、社会福祉士として実践を20年程続けてきた当ブログ筆者(社会福祉士養成学科学科長)が、その経験、事例も踏まえて説明します。

お問い合わせ 日本福祉教育専門学校 電話:0120-166-255
日本福祉教育専門学校本校舎は高田馬場駅から徒歩1分
新宿区高田馬場2-16-3

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by yrx04167 | 2015-09-21 20:00 | Comments(0)