福祉施設職員のメンタルヘルスの支援 職員のストレスマネジメントと施設のリスクマネジメント論文 業績一覧

<当ブログ筆者の論文 1 >
関屋光泰「福祉施設職員のメンタルヘルスとリワークの支援」 2016年
日本福祉教育専門学校 研究紀要 55頁から73頁
ISSN 0919-2034

 抜粋
Ⅰ. 福祉施設職員のメンタルヘルス支援プログラム
1. 福祉施設職員ストレスケア研修の開発と実施

 筆者は、福祉施設の介護職や支援員等の職員を研修により支援するため、「福祉施設職員サポーティブ研修」として4テーマのプログラムを、東京都福祉保健局による「事業所に対する育成支援事業 登録講師派遣事業」における研修として立案し、講師として実施した。
 この事業は、筆者を含む登録講師、つまり都内の社会福祉士、介護福祉士及び精神保健福祉士養成施設の教員等を、小・中規模の福祉施設の要望に応じて派遣し、個々の施設の課題に合わせ、専門的・実践的な研修を行うものであり、東京都社会福祉協議会が東京都から委託を受けて実施している。
 筆者が開発し実施した4テーマの研修とは、次のものである。
 「福祉施設職員のストレスケア研修」とは、職員の実践ストレスへの対処や燃えつき・慢性疲労の予防、メンタルヘルスのセルフケアを支援するプログラムである。現場の職員のケアと成長の促進を図る一連の研修の中核である。
 「福祉施設職員の職業倫理 ハラスメント予防」は、職員に求められる倫理やマインドの基礎と、ハラスメントの予防を事例等も踏まえながら解説する研修である。倫理を教条的に講義するのではなく、各施設の現実に沿いながらも倫理を共有し実践することを目指していく。職員の価値の部分を担う、研修の根幹部分である。
 略
 これらの筆者による研修は、都内の高齢者福祉施設及び障害者福祉施設の41箇所で研修を実施した。これらの研修は、介護職員、生活支援員、相談員、看護師、保育士、ケアマネージャー、施設長等の管理職等の合計711名が受講した。

*福祉施設のリスクマネジメントと職員のストレスマネジメント 
 研修プログラムの目的は、介護職員や支援員等の福祉施設職員の質の高い実践の持続を支援し、より良い働き方、生き方の拡充を促進するためである。
 当然ではあるが、個々の職員のメンタルヘルスの不調、混乱は、支援の実践に影響する。福祉施設全体にとっても、職務上のストレス、慢性疲労・燃えつき等によって実践が困難になり、更に休職し復職出来ない職員を生じて、職員の人員不足を招くことは、支援の質の低下や事故に繋がる可能性に直結する。
 職員のメンタルヘルス支援策、施設としてのストレス・マネジメントは、リスク・マネジメントでもある。もし職員の心身の健康の維持と、実践と職員の生活の拡充を促進するならば、良い福祉施設、良いサービスという実を結ぶ。つまり、福祉施設においては、事業の根幹は人にある
 筆者の研修は、離職を防ぐメンタルヘルス対策のみならず、施設と職員の成長、サポーティブな職場づくりをも視野に入れ、開発した。東京都の研修事業として機会を得て、各施設において実施し、現場からのフィードバックを活かし、プログラムの更なる改善を図ってきた。

2.職員の「いきなり退職」-施設共通の痛み
 研修の反応として、多くの福祉施設において語られた共通の問題とは、職員の突然の退職であった。職員のメンタルヘルスが密接に関わる「いきなり退職」は、現場を去る側には逃避の罪悪感を、残される職員には自責を、組織には人材確保の困難をもたらす。当然ではあるが、「いきなり退職」はメンタルヘルスの問題のみならず、複合的な要因が顕れたものであり、多様な側面がある。
 略
 また研修においては、慢性疲労や、職務上の困難を抱える職員をどのように支えていくべきかという課題が挙げられた。特に、メンタルヘルス領域の要因があり、休職中の職員のリワークをどのように進めていくべきかという課題が目立った。


(2)福祉施設職員間の人間関係の問題
 本研修におけるフィードバックからも、施設職員の人間関係における困難が明らかになった。福祉施設における支援は、多様な職種の職員のチームケアによって提供されているのであるから、職員間の人間関係に障壁があるならば、利用者にも働く職員にも影響が大きいことは言うまでもない。
 なぜ、職員間の人間関係には困難が生じるのか。それは、職員個人や組織としての実践の成果の不可視性等の要因によって、自己効用感の減退、無力感等の実践の不全感、否認とも言える感情と、苛立ちなどを含む否定的な感情が、職員の人間関係のなかで噴出されることが一つの要因である。つまり、実践における根源的な問題や、日常的な困難に直面したときの感情を、職員の人間関係の葛藤へと置き換えている。
 ここでは、実践の現実的な問題を、職員間の陰口という形態ではなく、これら否定的な感情の気付きの促進を起点として、感情を整理し、根源的な問題も見出し、改善への取り組みも検討する必要がある。これらを建設的に表現し合い、職員チームとして分析するワークショップ等の形態で、後述する外部者、コンサルタントがチームを支える必要があると考えられる。

(3)コンサルテーションの必要性
 福祉施設職員にとって、セルフケアや職員チーム内外のサポートネットワークによって、実践に踏みとどまっている。しかし、先述の図2の痛みが耐え切れない程になるか、頼りにしていた先輩等、燃えつきのストッパーが配置転換などによって拠り所を失うことによって、危機を迎える。休職によって回復を図るか、職務の課題に無関心になり、諦めや無力感の殻に閉じこもる。
 略
 コンサルタントが支えることによって、現場の職員がより良い実践を望むなかで、各自の能力を引き出し、適材適所で活かす組織マネジメントの促進が求められている。

(4)共通の痛みを緩和する-感情労働
 一人の職員にとっての困難、痛みは、他の職員にとっても同様に困難を生じていると考えられる。何が今の実践のなかで最も困難でストレスを生じているのか、その共通点を見出し、具体的な対策を立案しなければならない。例えば、職員が自身の直面している困難と感情を表現できず沈黙を強いられている状況は、改善を働きかける。また、実践の中で自己の存在価値、意味を見出せない、もしくは自らの仕事や立場に対して過剰な防衛をしてしまう等の問題がある。
 略
 トップダウンでも外部からの注入でもなく、後述するキャンプファイアのかたちで、現場の経験から学び、思考し、不安に対処していく。
 職員に共通する困難として、福祉施設における実践が感情労働の側面を持つことが、一つの要因である。感情労働とは、自分の深層もしくは表層の感情をコントロールし、利用者に適応した態度と言葉、表情、振舞い、配慮等で対応することにより、報酬を得る労働のことである。
 ホックシールドによれば「この労働を行う人は、自分の感情を誘発したり抑圧したりしながら、相手のなかに適切な精神状態をつくり出すために、自分の外見を維持しなければならない。この種の労働は精神と感情の協調を要請し、ひいては、人格にとって深くかつ必須のものとして私たちが重んじている自己の源泉もしばしば使いこむ。例えば、利用者の態度や感情がどのようなものであっても、職員側は受容的な態度と対応、配慮をするための、自身の感情の統制である。
 しかし、職員も感情を持つ人間であり、自らの感情を統制し、時に操作、規制することには限界がある。加えて、職務の忙しさによって時間と精神的なゆとりが減少すると、感情労働の切り詰めや、わりきりが行わざるを得ない。「労働者は、自分がまったくコントロールできないような膨大な数の人々に対して深層演技をするように要求されると、守りの姿勢をとる。この状況で自尊の意識を守り抜く唯一の方策は、その仕事を『幻想作り』として定義し、仕事から自己を引き離し、軽く考え、真剣にならないようにすることである」。
 総じて、福祉施設職員を含む社会福祉、介護、看護等の対人援助領域全般が、感情労働としての側面も持つ。深層演技は、職員の情緒への負担、疲労の蓄積に繋がり、その限界から情緒が摩滅するならば、実践の質に影響が生じる。
 求められているのは、感情労働の疲労等を表現し合い、職員チームとして支え合うことである。

 略
 研修において出会うことが出来た援助者の方々は、他者の痛みに真摯に向き合い、専門職として寄り添いながら支援する上で、慢性的な心身の疲労感、痛みを抱えていることが多かった。福祉施設職員が、利用者のために献身的に実践を続けているのに、自らの心身の健康を維持できない、職員の痛みを支える人は誰もいないということでは、質の高い支援の継続が危ぶまれる。
 また、ワーク・ライフ・バランスを欠き、援助者が自らの家族問題や親密な人間関係における問題が生じることも、援助者自身のサポートネットワークを損ないかねない。援助者の過度の献身性、実践にだけのめり込むことは、脆弱性をもたらす場合もあると言えよう。利用者にとっても、福祉施設という組織にとっても、援助者とその実践の持続可能性が求められている。
 今、援助者を支援しその痛みを緩和するプログラムが切実に求められている。
 総じて、福祉施設職員の痛みに応え、現場の様々なニーズ、声を活かす研修と専門職教育が求められている。
また、研修のフィードバックから、リワーク支援プログラムの実施を現場が求めていると言えよう。
 <以上、論文からの抜粋>

参考文献の一部
 A.R. ホックシールド著,石川准,室伏亜希訳『管理される心─感情が商品になるとき』世界思想社,2000年
 ドナ C アギュララ著,小松源助,荒川義子訳『危機介入の理論と実際 医療・看護・福祉のために』川島書店,1997年
 アントン・オブホルツァー,ヴェガ・ザジェ・ロバーツ編,武井麻子監訳『組織のストレスとコンサルテーション 対人援助サービスと職場の無意識』金剛出版,2014年


<当ブログ筆者の論文 2 >
当ブログ筆者の論文 関屋光泰「福祉施設職員のストレスケア サポーティブ研修プログラムの開発」
日本福祉教育専門学校 研究紀要第23巻1号 37頁から55頁 平成27年4月
ISSN 0919-2034

*福祉施設職員のストレスケア サポーティブ研修の主旨
・福祉施設職員の職務ストレスに対するセルフケアの促進、その方法
・ストレッサーのチェック
・実践ストレスのセルフケアのプロセス
・ストレスから復元する力=レジリエンスを強める
・ストレッサーの自己分析 
・福祉の職場の総合的ストレス・マネジメント
・ストレス場面への対処。リラクゼーションの方法
・援助者のエモーショナル・リテラシーの向上 感情のコントロール
・福祉施設職員の実務上の対策、専門職としての成長へ
・職員のメンタルヘルス ストレングスと自己への語りかけ
・実践ストレスを成長に繋げていくために。語り合いの力
・チームリーダーによるサポーティブな職場のファシリテーション 等

当ブログ筆者執筆の新刊 1
精神保健福祉援助演習(専門)第2版
精神保健福祉士シリーズ 10
福祉臨床シリーズ編集委員会 編

ISBN978-4-335-61117-9
発行日 2016/02/22 弘文堂

第8章 地域における精神保健問題 依存症と生活困窮(pp.171-178)
<概要>
 簡易宿泊所街「寿町」の精神科診療所におけるアルコール依存症と薬物依存症患者の支援の実践から、回復を図るグループワークや相談援助の課題等を考察した。
 生活保護を受給し簡易宿泊所に居住するアルコール・薬物依存症患者の回復の鍵を握るものとして、レジリアンスを挙げた。具体的には失敗を繰り返しても援助者と繋がり続け、危機を回避するための協働や、訪問やグループワーク等による社会的孤立を防ぎ、全人的な支援の持続が有効であると論じた。


関屋光泰(当ブログ筆者)の業績一覧 主要なもの>
(学術論文)
1.簡易宿泊所街における民間支援活動と支援者のあり方について
 単著
 平成21年3月 (修士論文 明治学院大学大学院 社会学研究科 社会福祉学専攻)

2.貧困・社会的排除とホームレス女性についての一考察 単著
 平成20年3月 『Socially』第16号 明治学院大学社会学・社会福祉学会

3.「日本型」社会福祉の源流をもとめて-小河滋次郎著「社会事業と方面委員制度」を読む- (査読付き)共著
 平成20年3月 『社会福祉学』第32号 明治学院大学大学院 社会学研究科社会福祉学専攻

4.簡易宿泊所街における民間支援活動と支援者のあり方について一横浜寿町における民間支援活動をめぐって- (査読付き)単著
 平成22年3月 『社会福祉学』第34号 明治学院大学大学院 社会学研究科社会福祉学専攻(pp.53-56)

5.簡易宿泊所街・横浜寿町地域における民間支援活動-歴史的経緯の概要-
 (査読付き)単著
 平成22年5月 『研究紀要』第18巻第1号 学校法人敬心学園 日本福祉教育専門学校 福祉文化研究所
 (pp.39-48) (ISSN 0919-2034)

6.簡易宿泊所街・寿町における、生活保護受給者等を対象とする精神科デイケア-開始段階の実践に関する考察 (査読付き)単著
 平成24年『研究紀要』第20巻第1号,学校法人敬心学園日本福祉教育専門学校福祉文化研究所
 (pp.35-48) (ISSN 0919-2034)

7.生活保護受給者を対象としたグループワーク -ドヤ街「寿町」における実践報告と考察-
 (査読付き)単著
 平成25年4月 『研究紀要』第21巻第1号,日本福祉教育専門学校福祉文化研究所
 (pp.39-52)(ISSN 0919-2034)

8.福祉専門職への転職と実践を支えるアクティブ・ラーニング (査読付き)単著
 平成26年4月 『研究紀要』第22巻第1号,日本福祉教育専門学校福祉文化研究所
 (pp.17-36)(ISSN 0919-2034)

(以下は、実践報告等)
9.『名古屋<笹島>野宿者聞き取り報告書』 共著

第一章 第三節 「仕事のない日の過ごし方」
平成7年10月 笹島の現状を明らかにする会
(pp.62-65)

10.野宿者の人々と共に創る演劇 単著
平成11年12月『Shelter-less』 (通号4),現代企画室 
(pp.71-76) (ISBN 4-7738-9934-4)

11.書評:冨江直子著『救貧のなかの日本近代-生存の義務-』 (査読付き)単著
 平成20年3月 『研究所年報』38号 明治学院大学社会学部付属研究所 (pp.211-213)

12.職業訓練生たち-1年目職員が感じた介護&ストレス 単著
 平成27年2月『介護人材Q&A』2015年2月号,産労総合研究所(pp.40-43)

(その他)
「第27回社会福祉士国家試験対策 ステップアップ講座テキスト」 平成26年8月
 日本福祉大学 社会福祉総合研修センターの社会福祉士国家試験対策講座のテキスト、社会福祉士全19科目、全194頁を執筆。

当ブログ筆者執筆の新刊 2
2017社会福祉士国家試験過去問解説集 第26回-第28回全問完全解説 日本社会福祉士養成校協会編集 中央法規出版
ISBN978-4-8058-5338-2


当ブログ筆者執筆の新刊 3
2017精神保健福祉士国家試験過去問解説集
一般社団法人日本社会福祉士養成校協会、一般社団法人日本精神保健福祉士養成校協会=編集中央法規出版
ISBN978-4-8058-5339-9



当ブログ筆者が報告を行います お知らせ
全国社会福祉教育セミナー2016 会場 淑徳大学 「ソーシャルワーク教育の新たな発展をめざして」
分科会第4 『一般・短期養成施設や通信課程におけるソーシャルワーカー養成の現状と課題(仮)』2016年10月30日

コーディネーター: 空閑浩人(同志社大学)
発題者: 山本由紀(上智社会福祉専門学校)
     明星明美(日本福祉大学福祉経営学部 通信教育)
     関屋光泰 (日本福祉教育専門学校)
主催 日本社会福祉教育学校連盟 日本社会福祉士養成校協会 日本精神保健福祉士養成校協会



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by yrx04167 | 2016-07-26 17:14 | Comments(0)