障害者虐待、権利侵害の再発予防 障害者施設の車内熱中症死 リスクマネジメント、コンプライアンス解説

「降ろし忘れ 障害男性、熱中症死 送迎車内に6時間半」
毎日新聞2017年7月13日 21時24分

 
「障害者施設の送迎車内で男性死亡 降ろし忘れで熱中症か」 朝日新聞

東京新聞 記事

 上尾市の障害者支援施設(NPO法人 コスモス・アース)における利用者の方の熱中症死は、本当に心が痛む。
 人間のいのちを支えることを使命とする福祉施設において、、このようないのちが軽く扱われてしまう事件が起きてしまうことは残念でならない。
 しかし、この事件には、いくつか気にかかる点がある。再発防止のために解明が待たれる。

 社会福祉の倫理の最重要なものは、人間の尊重である。人間は,人間であること自体で価値があり、社会福祉は人間を平等に尊重する。
 人間のいのちと権利を尊重すること、護ることが、社会福祉実践の使命である。特に、障害者福祉分野は、当事者組織の活動の歴史もあって、権利の保障、ノーマライゼーションが獲得されてきた。
 これらの理念は、福祉施設職員の標準であるはずである。
「社会福祉士の倫理綱領」抜粋
・前文
「われわれ社会福祉士は、すべての人が人間としての尊厳を有し、価値ある存在であり、平等であることを深く認識する。
 価値と原則
「社会福祉士は、すべての人間を、出自、人種、性別、年齢、身体的精神的状況、宗教的文化的背景、社会的地位、経済状況等の違いにかかわらず、かけがえのない存在として尊重する」

世界人権宣言第1条
「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」

 しかし、今回も障害者への虐待、不祥事が繰り返されてしまった。
 利用者本位、ピープル・ファーストであるべき福祉施設において、いのちが軽く扱われてしまった。
 過去に福祉施設で起きてしまった不祥事の多くがそうであるように、意図的なものではなく、ミスなのかもしれない。福祉施設職員のなかで、悪意を持って、意図的にハラスメント、虐待など加害行為を起こす人は稀である。ミスとしての倫理違反や、判断ミスや失敗も起こり得る。職員のバーンアウト、慢性疲労等の状態は、適切な実践を損なう要因ともなる。しかし、かけがえのないいのちを失い、権利を侵害した深刻な結果を招いた。

1 「置き去り」の原因は何か
 車内置き去り、閉じ込めが意図的なものではなく、現場の職員のミスではないかと思われるが、原因の究明が待たれる。もしかしたら慢性的な職員の不足や、組織としてのコンプライアンスの問題があったのかということも疑われるが、いくつかの要因が複合しているのだろう。

 コスモス・アース通信 第25号によれば「コスモス・アースの利用者 平成26年4月開設当初5名の利用者で開始した(中略) 27年度の平均利用率(開設日の実利用者数)は17.6人。平成28年4月新たに10名と契約」
 つまり、17、18人のなかの一人が送迎車(5人のなかの一人)から出てこないのに、半日程も職員が気がつかない、原因は何かということだ。
 生活介護施設であるから、施設における食事、移動、活動等、個別に支援しているるのに、不在を気づかない、また確認しないのはなぜか。
 東京新聞は「施設を運営するNPO法人の大塚健司理事長(75)によると、ワゴン車に乗っていた施設利用者は死亡した男性を含め五人。本来は降車時に複数の職員で点呼するが、他の利用者に気を取られるなどしたため、今回は怠っていた。昼食で利用者が一堂に集まったときも、男性の不在に気づかなかったという(略)施設では、通常、朝夕の送迎時の点呼と全員で食事を取る昼食時の三回、利用者の人数を確認できる機会があった。しかし、施設側は男性が送迎用ワゴン車から確実に降りたかどうかも確認せず、その後も不在に気づかなかった」
 「他の利用者に気を取られるなどしたため、今回は(点呼を)怠っていた」のは、職員の専門性、経験、チームワークに問題があったのか。
 個別の生活介護を行っているのに、利用者の不在に半日も気づかない。職員不足が常態化していたのか、職員数の問題から派遣や非正規職員が実際の支援を行っていて、申し送り等が行われていなかったのか。

2 活かされていない理念
 福祉施設にとって倫理を実践のなかで実行すること、理念に基づいた支援は重要なテーマであるが、下記のコスモス・アースが語る理念は、活かされていたのか気になる。
 福祉施設にとって事業の理念、倫理は樹の根なのである。。
 「NPO法人コスモス・アースは、「自然環境を守り、障害者があたりまえに暮らせる地域づくり」をテーマに活動を続けている。障害者がコロニーとして、囲い込まれて生活するのでなく地域社会で「壁」を造らずに生活する、物理的な壁だけでなく心の壁もなくしていこうとのことである。
 (略)
 相模原の事件を契機に厚生労働省を始め行政が「防犯カメラの設置」を叫び、地元警察や利用者の親から外部者への対応を聞かれる羽目になった。刺股の用意があるか、また、新聞等で訓練の様子が報じられる始末である。
 地域社会との壁をなくそうとしてきたことにたいして、「壁」を創れ、人間社会の根底には差別があり、障害者を守るためには監視が必要とのことなのか、単なる行政の保身的な発想で膨大な税金を補助金として使い防犯カメラ業界をもうけさせるだけなのか、年頭に当たり複雑な思いである。(大塚)」コスモス・アース通信 第27号

*社会福祉の価値と倫理、専門性とは
 社会福祉専門職の専門性を構成する基本的要素とは、
①専門職の価値と倫理=実践という大樹の「根」
・価値=善い、良いもの。何がよいか、望ましいかを示すものであり、実現を期待するもの。
・倫理とは、価値、理念から導かれる、専門職としての行動の指針と規範である。
②知識=専門的知識、
③専門的な技術・技能の三つが専門性である。これらの調和が保たれなければならない。

*社会福祉専門職には、なぜ倫理が必要なのか=何のため、何を目指す実践なのか
・介護・福祉専門職には、職業倫理が必要とされる。職業倫理とは、ある職業に就いている個人や集団が、職業としての責務を果たすために、自らの行為をコントロールする基準・規範のこと。
・あるべき姿、専門職と組織の成長の方向を示すもの。
 自らを問い直す、内省を伴う実践へ。

 多くの民間福祉施設において、慢性的な人員不足に陥り、過密な職務スケジュール、ゆとりの無い業務となっている。
 今日、福祉は設と職員にとって、正念場を迎えていると言えよう。職員が突然、辞めてしまうことは、珍しいことではない。
 しかし、当然ではあるが、職員の多くは、福祉施設の現場に留まり実践を継続している。
 福祉施設職員のストレスマネジメントは、施設のリスクマネジメントに直結する。
 人間が人間を支援している福祉施設にとって、一人ひとりの職員は要である。福祉は人である。


 利用者も職員も長い年月を共に過ごす福祉施設においては、相互に影響を与え合い、双方と施設全体が変化し成長を遂げる可能性がある。
 メイヤロフ(Mayeroff)によれば、ケアというものは、対象者の人間的な成長のためのものであり、ケアの提供者もケアの実践を通じて成長することが出来る。そしてケア提供者は、対象者から必要とされることによって、世界のなかでその場所に自らの居場所を獲得する。このケアとは広義の支援を指し、場所とは施設等を指すと考えられる。

*利用者本位
 ノーマライゼーションと、利用者の自己決定の実現を目指す。利用者と職員が対等な関係にたち,利用者の立場を第一に考える。
・社会福祉は本来、利用者主体という基盤のもとに拠って立っている。

当ブログ筆者の論文
当ブログ筆者の論文 「福祉施設職員のストレスケア サポーティブ研修プログラムの開発」
日本福祉教育専門学校 研究紀要第23巻1号 37頁から55頁 平成27年4月

抜粋「福祉施設において、有効な離職予防策を打ち出せないまま職員の人員不足を招くことや、燃えつき等によって充分に能力を発揮出来ない職員を生じることは、現場に更なる負担をかけ、過失や事故等に繋がる可能性に直結する。施設と個々の職員のストレス・マネジメントは、リスク・マネジメントでもあり、施設の運営管理にも大きく関わる課題である。
 良い福祉施設、良いサービスは、職員の心身の健康の維持と、実践と生活の拡充によって実を結ぶ。福祉施設においては、事業の根幹は人にある。だからこそ、着手が可能なところから、現場職員の支援策と、サポーティブな職場づくりを開始する必要がある」

福祉施設職員のメンタルヘルスの支援 職員のストレスマネジメントと施設のリスクマネジメント
当ブログ筆者の論文 関連業績一覧


 繰り返される福祉施設の問題の再発予防のため、この上尾の事件の解明が待たれる。
 毎日新聞「10年7月には千葉県木更津市の高齢者福祉施設で、利用者の女性(当時81歳)が炎天下の車内に約8時間置き去りにされて死亡した。女性は体が不自由で外に出られなかったとみられる」


<続報 新聞記事等>
<上尾男性放置死>忙しく運転手1人で降車確認 食事残るも確認せず
2017年7月14日(金)埼玉新聞

引用「県は14日、施設の立ち入り調査を実施。職員から事情を聴き、事実確認を行った。それによると、施設では利用者が送迎車を降りる際、運転手と職員が利用者の確認をしていたが、事故当日は実習生の受け入れなどで忙しく、運転手が1人で行っていた。また、昼食時に手付かずで残った男性の食事を見て職員の1人が不在に気付いたものの、遅刻などのケースもあるため確認を怠り、職員間で情報共有もされなかった。施設の大塚健司管理者(75)は13日、報道陣の取材に「職員の確認行為、連携がうまくいかず、機能しなかった」。

<上尾男性放置死>男性発見まで5回出欠確認、欠席扱いならず見逃す
2017年7月15日(土)埼玉新聞

引用「県警は15日、業務上過失致死の疑いで、施設を家宅捜索し、男性が車内に放置された経緯について捜査を進める」

<上尾男性放置死>男性の通夜、知人ら怒り「ずさん、考えられない」
2017年7月16日(日)埼玉新聞

引用「上尾市の障害者支援施設「コスモス・アース」で男性利用者(19)が車内に放置され熱中症とみられる症状で死亡した事故で、男性の通夜が16日夕、上尾市内の斎場でしめやかに営まれ、親族や友人らが早すぎる別れを惜しんだ。男性の母親は憔悴しきった様子で、「本当のことが知りたい」と話したという。知人女性は「体の大きな男性を車から降ろし忘れるなんて考えられない。いないことに気付いた職員が男性を捜さないのもずさん」と怒りをあらわにした」

障害者施設の送迎車に放置、熱中症で死亡男性の告別式
TBSニュース 2017年7月17日

引用「男性の告別式は17日午前11時前から上尾市の斎場で営まれました。男性の親族は、JNNの取材に「とにかくかわいい子でした。どうして6時間も取り残され苦しまなければならなかったのか、真実を知りたいです」などと話しました。警察は業務上過失致死の疑いもあるとみて、施設の管理体制などを調べています」引用ここまで

<上尾男性放置死>あり得ない…施設に批判の声 浮かぶずさんな管理
2017年7月19日(水)埼玉新聞

引用「事故が障害者の親たちに与えた衝撃は大きく、男性の通夜に参列した保護者らは「確認の点呼を取らないなんてあり得ない」「男性の面倒を見る担当者はいなかったのか」と施設を批判した」引用ここまで

<上尾男性放置死>ひとごとでない…施設の1日に密着 人手不足の今
2017年7月20日(木)埼玉新聞


平成27年度における埼玉県内の障害者虐待への対応状況について
埼玉県HP

部局名:福祉部
課所名:障害者支援課
担当名:総務・市町村支援担当
引用「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待への対応状況等について
 ○ 県内の市町村等で受け付けた障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に関する相談、通報件数は、平成26年度より2件減り、47件でした。
 ○ 相談、通報があった47件のうち、市町村が虐待と認定した件数は、平成26年度より5件増え、14件でした。
 ・ 虐待行為の類型(※)は、身体的虐待7件、心理的虐待6件、性的虐待5件でした。
 ・ 虐待を受けた障害者(※)は、男性16人、女性9人でした。障害の種別(※)では、知的障害25人、精神障害1人でした。
 ・ 虐待を受けた障害者の年齢は、30歳代7人、40歳代6人、20歳代4人の順でした。
・ 県及び市町村では施設等に対し指導を行い、改善計画の提出など再発防止の徹底を図りました。
 (※)認定件数に比して多いのは、1件につき複数の虐待が行われたため」引用ここまで


<関連記事>
睡眠薬を過剰投与 諏訪市、社会福祉法人を指導
2017年6月18日 中日新聞

引用「諏訪市の社会福祉法人「こころ」が運営する特定施設入居者生活介護事業所で、入所者に医師が処方した分量を超えて睡眠薬を服用させる身体的虐待が認められたとし、市が法人に対して改善計画書の提出を指示したことが分かった。
 市は一月に通報を受け、高齢者虐待防止法に基づき聞き取り調査などを実施。睡眠薬の過剰投与は身体拘束に当たるとし、虐待と認定した」


意図的な障害者虐待 過去の重大事件
【相模原市障害者施設殺傷事件】 障害者団体等の声明 ハートネットTV
全国手をつなぐ育成連合会 神奈川県立津久井やまゆり園での事件について(声明文)等

87歳を投げ落とし殺害容疑、元職員逮捕 川崎3人死亡
2016年2月16日01時24分朝日新聞

引用「県警によると、今井容疑者は2014年11月3日午後11時ごろから4日午前1時50分ごろにかけ、川崎市幸区幸町2丁目の老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で、入所者の男性(当時87)を4階ベランダから投げ落として、殺害した疑いがある。男性は胸を強く打ち、内臓破裂で死亡した。川崎市消防などによると、14年11月にこの男性が転落した以外にも、12月上旬には女性(当時86)が4階から、同月下旬には女性(当時96)が6階からそれぞれ転落していた。消防が市内の病院に救急搬送したが、死亡が確認された」引用ここまで

 組織としてのコンプライアンスの問題 過去の事件
 群馬県の「たまゆら火災事件」など。
 日本経済新聞 たまゆら元理事長に有罪 老人施設火災10人死亡 前橋地裁判決
 
 神奈川のNPO PWLも、コンプライアンスなどが社会問題になり、事業は別法人に継承された。
 神奈川新聞「公的事業から撤退 横浜・NPO法人「PWL」、別法人が障害者支援継承」


<情報提供>
「ともに生きる社会」を考える 7.26神奈川集会

 障害のある19名が亡くなった、津久井やまゆり園事件から半年後の、平成29年1月26日に、『津久井やまゆり園事件を考える』1.26神奈川集会を横浜で開催し、障害者や支援者等300名以上が集まり、亡くなった方々の追悼をするとともに、障害者が安心して地域で暮らすことのできる社会を作るためのアピール文を神奈川県に届けました。そして、事件から1年を迎える平成29年7月26日に、改めて亡くなった方々を追悼し、「ともに生きる社会」を考え、実現するための神奈川集会を開催いたします。
■日時:平成29年7月26日(水)13:00~16:30(受付開始 12:00~)
■会場:男女共同参画センター横浜(フォーラム)

<追記 紹介>
「ともに生きる社会を考える」7.26神奈川集会アピール
 だれもがその人らしく暮らすことのできる地域社会の実現にむけて

引用・抜粋「「障害者なんていなくなればいい」「障害者は不幸を産み出すことしかできない」という考え方(優生思想)をいだいた元職員により、障害のある人19名の命がうばわれ、27名が傷つけられた津久井やまゆり園事件から一年がたちました。
 この一年、なぜこのような事件が起きてしまったのか、津久井やまゆり園をどのような形でつくりなおす必要があるのか、二度とこのような事件を起こさないためには、どのような取り組みが必要なのかを考えてきた一年でした。 略
 障害のある人たちが自分の暮らし方を、自分で選べる状況になってはじめて、「ともに生きる社会」になったと言えます。神奈川県をあげてそうした取り組みをすすめることこそが、あの恐ろしい事件で奪われ、傷つけられた命を大切にすることにつながるのではないでしょうか。
 日本は2014年に「障害者権利条約」をむすびました。「障害者権利条約」というのは、障害のある人たちの権利を守ることについて世界で決めている国際条約です。その人が望めば、自立し、社会に参加する権利があることを示したものです。
 その条約の中には、障害のある人一人ひとりが、誰と、どこで、どのように暮らすかを選択することが権利として認められていること、その選択を実現するために必要なサービスを受けられることが書かれています 略 」引用ここまで

「障害者いらない」取り消して=被害施設家族会長―相模原殺傷から1年
時事通信社 2017年7月22日

引用「「障害者はいらない」とした元職員植松被告(27)=殺人罪などで起訴=の発言に対し、「言葉を取り消してほしい」と強く訴えた。事件を契機に、「共生社会の実現ということに、自分たちがどう関わっていくのか」を考えるようになった」引用ここまで

やまゆり園殺傷事件で追悼集会「十九の御霊よ安らかに」
2017年7月22日 朝日新聞

引用「同園の家族会などは22日、建て替えのための仮移転先「津久井やまゆり園芹が谷園舎」(横浜市港南区)の体育館で、亡くなった19人を追悼する集会を開いた。
 入倉かおる園長は「一人ひとりの人生が確かにあの地にあって、豊かに暮らしていたことを語り合いたい」などと涙ながらに話したという」引用ここまで

(やまゆり園事件が残したもの:上)
差別・障害「私は伝えていきたい」やまゆり園事件1年
2017年7月24日 朝日新聞

引用「障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で19人の入所者の命が奪われた事件から、まもなく1年を迎える。事件とどう向き合い、その教訓をどのように伝えていくのか。模索している人たちを訪ねた」引用ここまで


障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律について

障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律


ファシリテーター養成講座 福祉のまちづくりを協働して推進する
ルーテル学院大学

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by yrx04167 | 2017-07-15 23:09 | Comments(0)