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離職、職業訓練を経た介護職のストレス ブログ筆者の論文要約 離職者に開かれた福祉施設の仕事

関屋光泰『職業訓練生たち-1年目職員が感じた介護&ストレス』
「介護人材Q&A 2015年2月号 介護職員「こころの健康管理」その施策と工夫」,産労総合研究所

ブログ筆者の論文 要約
 離職、職業訓練(求職者支援制度)を経て、介護施設へ就職をした元訓練生の介護職員対象のグループインタビュー、ヒアリング等から、彼ら彼女らの介護現場における離職等につながり得るストレス要因について考察したものである。
 対象者は、2012年に開講された求職者支援制度による介護職員基礎研修の受講者であり、聴き取りの実施時期は研修終了から1年である。

離職者に開かれた介護の仕事 介護職への転職の理由
 元訓練生は介護職という全く未知の領域へ転職しようとした理由について、「40代の自分(女性)であっても、正規職員になれるから」等、他の業種・職種に比べて介護職など福祉施設職員の正規雇用に採用される年齢等の幅の広さを挙げている。
 また、「介護職員として就職できたことで、1人で子供を抱えている自分も自立できた」など、シングルマザー等にとって介護職は開かれた職業・職場
であることが分かる。
 加えて、「(職業訓練の)前は引きこもりの生活であったが、介護の仕事によって自らの生活も安定した」、「(離職)前の職場では周囲と人間関係がうまくいかなくて仕事が続かなかった」と語ってくれた人もいた。これらは離職を経た職業訓練の特徴とも言えよう。
 さらには「利用者とお互いの痛みを持った人間同士のつながりを持ちたかった」、「誰かの役に立つ仕事をしたかった」、「人が喜んでくれる仕事がしたかった」等の職業選択の理由は、介護職という人をケアする意義ある職業を現しているのではないだろうか。これらも介護職領域の特性の1つといえるかもしれない。

介護の職場のストレス要因
 特徴的であるのは、「自分の考えていたような介護ができない」という悩みであった。
 例えば、認知症高齢者の行動特性を踏まえたマンツーマンによる関わりの徹底によって、質の高いケアを追究することができているなど、介護職として着実に歩んでいるケースもある。
 しかし、大半は職業訓練で学んだことと現実の介護現場との「落差」が大きいことにショックを受けている。さらに「利用者に寄り添うことによる緊張感」や、利用者の看取りなど、喪失に関わることもストレスにつながる。
 ストレス要因に挙がっていたのは、職員不足の傾向に対するものである。「多くの利用者に対して職員1名では、単にこなすだけの作業になってしまう。きめ細やかな介護ができない」といった訴えである。また「モチベーションがあまり高くないかn様な職員もいることが残念」、「職員の離職率が高い」等である。
 それでは、介護実践のストレスはどこから来るのか。大半が職員間の人間関係が大きいと答えている。
 次に多いのが「自分が思っていたような介護ができない」という意見である。利用者の主体性の尊重など、自立支援に対して「学んできた介護倫理の観点とはギャップがある」という。

 例えば、施設理念の中に「自立支援」を目標として掲げているわりには、実際は、利用者の中には付き添いがあれば歩いてトイレに行けるかもしれない人がいるにもかかわらず、職員は食事介助などの多忙のため、最初から車いすに乗せてしまう。また利用者の自己決定の尊重という面でも、本来ならば利用者が「こうしたい」とするいう希望をじっくりと聴き、受け入れる時間が必要である。しかし、それを待つだけの時間がなく、利用者の意思にかかわらず、対処せざるを得ない。

介護技術だけでなく職員のサポーティブ研修が必要
 各施設において職員研修は行われている。しかし、介護技術のスキルアップ研修が多いようである。
 技術だけではなく、職員のセルフケアを支えるという面で、研修のもう1つのスタンスを「サボーティブ研修」として位置づけ、また研修以外にも職員が気軽に専門家に相談できる窓口との連携、職員のサポートネットワークなどの整備が急がれる。

 総じて、聴き取り対象の元訓練生の介護職員たちは、再就職のために職業訓練を経て介護職員として「人間を支える仕事」の道を選んだ。
 ヒアリングでも「利用者のためになる仕事だから頑張れる」、「前職に比べ人間的な仕事だ」など、介護職員として日々の実践から自己効用感を得て、介護という仕事の意義を内在化して働いていることが分かる。

当事者性を持つ介護職の居場所としての福祉施設
 失業を脱するための職業訓練から出発し、再就職出来た介護職員は、自らの失業・生活困窮や家族問題、メンタルヘルス等の当事者性を持っている。そして、安定した雇用と自己実現、やりがい、繋がりを得られる居場所が、福祉施設の職場であるという側面がある。
 自己実現、繋がり、自らの居場所等を獲得した人たちが、困難があっても、離職せずに介護職員に定着しているとも言えよう。

 こうした離職を経た元訓練生の介護職員の意欲を維持し、成長を支えていくためにも、これまで以上に施設側のきめ細かな施策を期待したい。

付記

離職からの再スタートのキャリアとしての介護職
 この論文で触れた介護職員は、長期の離職や困窮、引きこもりなど生活や心身の健康、家族の問題を経験し、乗り越え、再スタートした人々である。

支援を受けた経験をケアの力へ
  人生の一時期、支えられた経験を持つ人が、支える側へと成長していくことは、ソーシャルワークにおいて、提起されてきた(クライエントだった人をワーカーとして活用する)。当事者性を持つスタッフによる支援は、これまで、依存症からの回復支援、精神保健、障害者支援、生活困窮者支援などの領域のなかで先駆的に取り組まれてきた。更なる拡大がもたらすのは、自立、社会参加、自己実現に繋がり、かつ社会への貢献でもある。

「求職者支援制度」は、離職者対象の職業訓練と経済給付制度であり、その一環として介護職員養成も行われている。
 求職者支援制度のほか、東京都のTOKYOチャレンジネット 介護職就職コースは、特筆すべき対策である。
 他の産業の失業者、住居喪失者(そのおそれのある)、生活困窮者を介護職員として養成する。サポートする事業である(対象「解雇・雇い止めによる離職者等であり、住居喪失状態または住居喪失状態となるおそれのある方」等)。
民間の支援団体による、ホームレスを介護職員にする活動もあった。

 再スタートの介護職員を福祉施設として受け入れ続けることは、意義がある。しかし、フォローを施設だけに任せるのではなく、外からの支援として研修、相談、コンサルテーション、継続した学びの機会の提供(リカレント教育など)等が必要である。
 また、各施設のスーパーバイザーや現場のリーダー、職員研修の講師等、対策を担っている専門職、研究者の対応の実際と課題、実践知の共有を進めることも必要であると考えられる。

職員の多様性をゆたかなものへ
 福祉施設職員の多様性のゆたかさを現場の力へ、ケアの質へ、個人と組織のレジリアンスに転換していくことが求められている。

当ブログ筆者の論文
関屋 光泰「福祉施設職員のストレスケア サポーティブ研修プログラムの開発」
日本福祉教育専門学校 研究紀要第23巻1号 37頁から55頁 平成27年4月

抜粋「福祉施設において、有効な離職予防策を打ち出せないまま職員の人員不足を招くことや、燃えつき等によって充分に能力を発揮出来ない職員を生じることは、現場に更なる負担をかけ、過失や事故等に繋がる可能性に直結する。施設と個々の職員のストレス・マネジメントは、リスク・マネジメントでもあり、施設の運営管理にも大きく関わる課題である。
 良い福祉施設、良いサービスは、職員の心身の健康の維持と、実践と生活の拡充によって実を結ぶ。福祉施設においては、事業の根幹は人にある。だからこそ、着手が可能なところから、現場職員の支援策と、サポーティブな職場づくりを開始する必要がある

福祉施設職員のメンタルヘルスの支援 職員のストレスマネジメントと施設のリスクマネジメント
当ブログ筆者の論文 関連業績一覧


<当ブログ筆者の論文>
関屋光泰「福祉施設職員のメンタルヘルスとリワークの支援」
日本福祉教育専門学校 研究紀要 55頁から73頁


<ブログ記事 バックナンバー>
当ブログ記事バックナンバー 福祉施設職員研修


当ブログ筆者執筆
精神保健福祉援助演習(専門)第2版
精神保健福祉士シリーズ 10
福祉臨床シリーズ編集委員会 編

ISBN978-4-335-61117-9
発行日 2016/02/22 弘文堂

第8章 地域における精神保健問題(依存症と生活困窮)

筆者のコメントが新聞に掲載されました 福祉施設職員のストレスケア、メンタルヘルス、感情労働とは
新聞に筆者のコメントが掲載されました「ルーテル学院大の関屋光泰 助教は、東京都内を中心に約60カ所の障害者施設などで職員向けのストレスケア研修を行ってきた。「忙しい時に利用者への言葉がきつくなり、そんな自分を責めてしまう」、研修の受講者からは、そんな悩みが多く寄せられる。<略>「自分が理想とする支援ができず、自己嫌悪に陥る職員も多い。職員のケアの必要性に目を向けるべきだ」と訴える」抜粋
(やまゆり園事件が残したもの:下)地域に開く、支え合い歩む
2017年7月26日 朝日新聞朝刊 全国


東京都福祉保健局(委託の研修事業)登録講師派遣事業 講師派遣を希望する事業所の方へ


ファシリテーター養成講座 福祉のまちづくりを協働して推進する
ルーテル学院大学

引用「地域福祉ファシリテーターとは?
 地域の福祉課題や地域の中で支援を必要としている人を発見し、自らが持つ能力や人脈、社会資源を生かしながら、具体的な「新たな支え合い」活動を企画・実施する中核となる人々のことを指します。この講座では、講義だけでなく、体験的な演習やフィールドワークを盛り込み、講座修了後には、具体的な「新たな支え合い活動」が実際に展開されることを目標としています」引用ここまで


「フクシゴトフェス @東京 福祉をもっと、好きになれ」

福祉人材戦略フォーラム


福祉人材確保対策 厚生労働省

by yrx04167 | 2017-08-01 13:18 | Comments(0)