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相談援助の理論と方法 第28回講義レジュメ2 問題解決アプローチ・モデルとは 社会福祉士養成科

相談援助の理論と方法 第28回講義レジュメ2 2011/10/27 6・7時限
日本福祉教育専門学校 社会福祉士養成科(夜間部トワイライトコース) 担当:当ブログ筆者

3節 問題解決アプローチ
<問題解決アプローチ(モデル)の経緯

 H.パールマン(H.H.Perlman)は,1952年の論文で、ケースワークに「ソーシャル」な特質を取り戻す努力をすべきであると強く訴えた。
 また、A.マイルズは1954年に、社会環境条件に重点をおく立場を回復すべきであり、ソーシャルワークと社会科学との連携を訴えて「リッチモンドに帰れ」と主張した。

・パールマンは1957年に「ソーシャル・ケースワークー問題解決の過程」を著し、診断派の立場に立ちつつ機能派の理論を取り入れた「問題解決モデル(アプローチ)」を体系化した。それは、診断主義の科学性と機能主義のクライエントの主体性の尊重という二つを折衷的に取り入れたものである。また、この著書は、自我心理学や経験主義教育学,社会学の役割理論などの影響がみられる。
・パールマンは,人が生きることあるいは社会的に機能すること(social functioning)は問題解決のプロセスであると考え,自我機能としての問題解決能力を重視した。また、プロセスを重視し、「専門的ヘルパー」としてのケースワーカーとクライエントとがやりとりしながら前進するプロセスであり,ワーカーとクライエントがともに行う一連の問題解決作業であるとした。
 パールマンは,こうしたプロセスにおけるケースワーカーの役割は,クライエントへの問題解決の動機づけと,問題解決するための技術を身につけるようにすること,そして,身につけた技術を実際に使う機会を提供することであるとしている。
・パールマンの問題解決アプローチの特色は、利用者を、社会的に機能する主体的な存在として捉える点と、個別援助を、施設・機関の機能を担った援助者と、問題を担っている利用者の役割関係を通じて展開される問題解決の過程として捉える点にある。

 また問題解決モデルとは、
①人の生活は問題解決の過程であり困難は病理ではないという視点に立ち、
②問題解決の主体は利用者、
③社会的役割葛藤の問題を重視、
④ケースワークの構成要素である「四つのP(人・問題・場所・過程)」、
⑤支援=ケースワークを用いて問題解決に取り組む利用者の力を「ワーカビリティ」と呼ぶ。

◆用語解説:「四つのP」
 パールマンがケースワークの定義のなかで用いた相互に関連する四つの基本的構成要素をさす。
①人=Person(援助を必要とする問題をもち、施設・機関に解決の援助を求めてくる利用者)、②問題=Probrem(その人と環境との間に調整を必要とする問題)、
③場所=Place(援助者が所属し、個別援助が具体的に展開される場所である施設・機関)、④過程=Process(個別援助者と利用者との間に築かれた相互倍額関係を媒介として展開される援助の過程)をいう。
◎パールマンによれば,人々が社会生活をするうえで抱える問題を,より効果的に解決することを助けるために社会福祉の専門機関・施設があり,そこで機関の機能やワーカー自身,またワーカーとクライエント間の援助関係を用いて繰り広げられる専門的援助過程がソーシャル・ケースワークである。

◆用語解説:「ワーカビリティ」
◎ワーカビリティとは、問題解決に向かう能力と,自発的に援助を受けようというクライエントの動機づけ、問題解決の機会をさす。能力は,身体的・知的・情緒的側面から評価する。「動機づけ」はクライエントや家族の価値観,生育歴や周囲などによって影響を受けるため,個人を取り巻く環境にも注意を払いつつ検討する必要がある。ワーカビリティの評価は,クライエントの変化に応じてつねに見直し,修正を加えていくことが求められる。

*折衷主義に立つアプティカーは、機能派の立場に立ちつつ、診断派の理論を積極的に取り入れ、ケースワークとカウンセリングの関係について、比較分析した。

・問題解決やニーズの充足、社会資源につなぐための仲介・調整を行うケースワークとして。
 社会資源の活用・調整等を行う。

<テキスト解説>
1 起源と基盤理論 テキストP150

・パールマンは、心理社会的アプローチと機能的アプローチの折衷として、問題解決アプローチを構築した。
・自我心理学のコンピテンス、デューイ合理的問題解決論、シンボリック相互作用論、役割理論を摂取した。プラグマティズムが背景にある。

2 問題解決アプローチを理解するためのキーワード
*コンピテンス

・能力の活用への興味、希望などの動機づけを含み、環境からの要請にはたらきかけ、課題を遂行しようとする能力のことをいう。「潜在能力」「社会的自律性」などの訳がある。

*6つのP
・援助を求めてくる人、問題、具体的援助が展開される場所、援助過程、専門家、制度・政策・資源(provisions)-実践の構成要素。

*ワーカビリティ
・クライエントの、問題解決における支援活用能力。

*MCOモデル
・動機づけ、能力、機会-問題解決への要素。

3 適用対象・適用課題

・人間を潜在的問題解決者、ソーシャルワークは「好ましくない状態から好ましい状態への移行を含む」問題解決過程である。援助の活用を動機づけされた個人が対象となり、適用課題は特に設定していない。

4 支援焦点
・パールマンは、「援助の本質は、それが個人の社会的適応をもたらし、一社会人としての彼の機能を回復させ、新生面をひらき、補強することを目的とする(『ソーシャル・ケースワーク』)」
・クライエントの社会的な課題を遂行する場合、効果的な対処が可能なように援助する。

5 支援展開
・問題解決アプローチは、①接触、②契約、③活動の各段階で展開される。
・接触段階は、問題の明確化、短期・長期の目標の明確化、資源の検討が行なわれ、予備的な契約となる。「動機づけ」「能力」「機会」を検討する。
・契約段階は、問題のアセスメントにより、目標、サービス提供の方法、両者の役割などの計画を策定する。
・活動段階は、計画が実行に移され、達成内容の評価後、終結となる。

<補足>
*問題解決アプローチ登場後の米国の社会情勢
「貧困の再発見」と「貧困戦争

 60年代に入ると、ベトナム戦争の長期化、国内の貧困問題、人種差別、麻薬、失業等、アメリカの社会問題の深刻化が進んだ。
<貧困の再発見>
・この時代のアメリカ合衆国では全人口の2割が貧困である状況から「貧困の再発見」が強調され、黒人等の人種的マイノリティを中心に,依然として貧困が除去されていないことが認識された。
○「貧困の再発見」とは、もともとは経済的に発展した国や社会で,社会調査によって貧困が残存していることが明らかにされ,政府や国民が貧困問題に再び関心をもつようになること。アメリカではハリントン(Harrington, M.)の『もう一つのアメリカ』(1963)や、ガルブレイスの『ゆたかな社会』(1958)が,貧困の再発見に貢献した。米国はこれらの文献により、「偉大な社会」であった1960年代の米国において多数の貧困者がスラムなどの閉塞的空間の中で「貧困の文化」を継承し、貧困の世代的な再生産が現実にあることが、社会問題化したのである。
<貧困戦争>
・1964年にはジョンソン大統領によって国家の貧困撲滅への取り組み「貧困戦争」が布告された。具体的には雇用対策事業等の対策,各種アファーマティブ・アクション・プログラムの実施などで,一定の効果をあげた。
・このような時代の流れから、貧困問題を忘れた社会福祉援助者は「愛されぬ専門職」と呼ばれて厳しく批判された。それは、社会福祉改革に無関心であるが故の評価であった。

*さまざまな社会問題の発生とソーシャルワーク
・福祉権運動は、1950年代後半から1960年代の米国社会の人種差別等を根底から問い直す契機となった公民権運動と相互に連動し、「貧困との戦い」に対する受給者やその支援者たちによる異議申し立てを機軸に展開された運動である。
・一方で活発化した公民権運動や福祉権運動の担い手から、中産階級的価値観の体現者になりすまし、利用者の人格に問題があるという前提に立って援助を開始する、心理主義、精神分析学に偏重したケースワークに厳しい批判がなされた。

■パールマンの「ケースワークは死んだ」
 ケースワークへの批判に加えて、1965年にHマイヤーらによって女子職業訓練学校におけるケースワークの効果測定が実施され、ケースワークの援助には何ら効果が認められないとの実験結果がもたらされた。
・これらを受けて、H.パールマンは1967年に「ケースワークは死んだ」との自己批判と、ケースワークの存在意義、再生への期待を強調した論文を発表している。

・このような状況に対応して、全米ソーシャルワーカー協会(NASW)は、ソーシャルワーカーの新しい役割として「アドボカシー(権利擁護)」と、社会変革に関わることなどを打ち出した。これは、ケースワークは擁護的機能をもつとして、自分の要求や権利を自分の手で守ることのできない利用者に代わって、彼らの権利や要求、立場を擁護しようとする役割である。また、クライエントと社会資源との仲介者、福祉政策・制度策定へのソーシャルアクションを担うことも加えられた。

<レジュメ3に続く>

社会福祉士受験支援講座・教員日記 : 相談援助の理論と方法 第27回講義レジュメ1 治療・生活(ライフ)・ストレングスモデルとは

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日本福祉教育専門学校 社会福祉士養成学科・養成科
社会福祉士及び介護福祉士法


*用語解説は下記をクリック




○解説:貧困の文化論 culture of poverty theory
 「貧困の文化」はルイス(Lewis, O.)が提唱した概念である。経済発展から取り残された貧しい人々は,適応のために独自の生活様式を築き,これが文化全体のなかの一つのサブカルチャーとなっている。この文化は中途退学や婚外子出産等のかたちで次世代に継承され,貧困の世代的再生産の構図が成立する。この議論には実証的な反論もあるが,先進国での福祉依存問題に示唆するところが多い。

○解説:貧困の世代的再生産  generational cycle of poverty
 貧困状態の家庭で育った者が,そこで習得した生活様式や価値観,教育経験や勤労態度などによって,大人になって自ら生計や家庭を営むようになってもまた貧困状態にいたってしまうこと。親世代から子ども世代という異なる世代間において,貧困が再び繰り返されることになる。ルイス(Lewis, O.)の「貧困の文化」論なども,その一例といえる。そのような循環を断ち切るために,貧困家庭の子どもへの教育の早期化などが議論される。

○解説:ヘッド・スタート計画 Head Start Project
 貧困家庭の就学前児童や障害児を対象とする補償教育事業。アメリカにおいて経済機会法の一環として1965年から開始された。教育・医療・栄養・社会サービスなどを含む総合的な援助の提供により,小学校入学時点での経済的・文化的・社会的な原因による教育機会の格差を是正することを目的とする。開始当初は貧困家庭の児童のみが対象であったが,1974年から障害児を含めることが定められ,就学前の障害児に対する援助プログラムの一環にもなっている。

○解説:公民権運動 civil rights movement
 アメリカの,公立学校・公的機関の分離平等政策(施設や設備が平等であれば,分離はしても平等違反にならないという考え方)を憲法違反とした1954年のブラウン判決や,マーチン・ルーサー・キング牧師(King, M. L., Jr.)の指導したバス・ボイコット闘争以降の,公民権法成立を要求する1950~60年代の黒人運動のこと。1963年8月のワシントン大行進で20万人の行列の先頭に立ったキング牧師は,「私には夢がある」との有名な演説を行い,法案成立に大きなインパクトを与えた。翌64年7月,ジョンソン政権下で,人種差別撤廃をうたった公民権法が成立する。この運動は,黒人だけではなく白人やインテリを含む運動として展開し,ベトナム反戦運動ともその後結びついていくことになる。なお,広義には,憲法の保障した権利の適用を求める社会的少数派の運動全般のことをさして,公民権運動とよぶこともある。

○解説:アファーマティブ・アクション
 アメリカにおける特定対象の優遇や地位向上をねらった措置。ポジティブ・アクション(positive action)ともいう。対象は女性や人種・民族的少数派など歴史的・構造的な差別のため教育や雇用の面で不利な扱いを受けてきた・受けやすい人々である。主な内容は大学入学における少数民族(アフリカ系アメリカ人,先住民等)の優遇や,官公庁や民間企業での採用や昇進等における差別撤廃措置の義務化である。
by yrx04167 | 2011-10-27 14:19 | Comments(0)