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相談援助の理論と方法 第29回講義レジュメ1 危機介入、行動変容アプローチとは 社会福祉士養成科夜間部

相談援助の理論と方法 第29回講義レジュメ1 2011/11/10 6・7時限
日本福祉教育専門学校 社会福祉士養成科(夜間部トワイライトコース)
 講義担当:当ブログ筆者
5節 危機介入アプローチ
○概要:危機介入アプローチ
 ◎危機介入とは、危機状態にある対象者(個人, 集団, 組織, 地域など)に対して,その状態からできるだけ早く脱出することを目的に迅速かつ直接的に行われる援助。危機とはクライエントがそれまで獲得し、用いてきた対処方法では問題解決を図ることができず情緒的に不安定な状況である。
 危機に直面して情緒的に混乱している利用者に対して、適切な時期に、迅速に、危機介入していく援助方法である。危機理論を導入したもの。積極的・集中的な援助を行い、危機状況からの脱出を目的とする援助方法である。

危機理論
 危機理論とは、火災で犠牲となった人々の関係者(遺族,親族,友人・知人)の悲嘆にまつわるリンデマン(Lindemann, E.)の研究に端を発し,後にキャプラン(Caplan, G.)らと共同で1940年代から60年代に構築された理論。
 危機とは,対処困難な事態に突然直面した際に引き起こされる,身体的・心理的・社会的にホメオスタシス(恒常性)のバランスを崩した状態をいう。ホメオスタシスに基づく危機理論は,人が危機状態から脱する過程において一定の段階と法則が存在し,その期間が長期的なものではないとの仮定をおく。

1 起源と基盤理論 テキストP156
・フロイト精神分析、エリクソンの自我心理学(発達段階・課題)、学習理論を基盤とする。
 ロスの死の受容過程研究、リンデマンの急性悲嘆反応研究、キャプランの地域予防精神医学研究を摂取し、短期処遇の方法として理論化、体系化された。

2 危機介入アプローチを理解するためのキーワード
*死の受容過程
 ロスは、重要な他者の死を適応・受容するプロセスを、①否定、②怒り、③取引き、④抑うつ、⑤受容と捉えた。各段階の特徴や支援方法などの明確化を図った。

*地域予防精神医学
 キャプランは、危機理論を構築し、危機の予防、早期の介入の重要性を示した。

*危機 
 従来の対処能力が損なわれたことにより、通常の安定した状態に生起する急性の感情的混乱。

3 適用対象・適用課題
・専ら「危機的状況」が課題として取り上げられ、危機を抱える個人・家族・グループが対象となる。危機と危機による社会的機能の障害が生起している状況に適用され得る。

4 支援焦点 テキストP157
・急性の心理学的危機(感情的混乱)におけるニーズ充足等を図り、新しいパターンを教示しつつ対処能力を強化し、社会的機能を回復する。

5 支援展開
・キャプランは、「危機は、人が大切な目標に向かう時障害に直面し、それが習慣的な問題解決の方法を用いても克服できない時に生じる。混乱の時期、動転の時期が続いて起こり、その間にさまざまな解決の試みがなされるがいずれも失敗する」と捉えた。

・予期できる危磯とは、発達段階で予測される(成熟に伴う)危機である。
・予想できない危機とは、喪失に由来する危機、準備が十分でない状態で経験する危機といった状況的危機、災害等の危機がある。
・危機によって生じる身体や心理、関係機能面での苦痛を軽減・解消するために介入する。
 
・早期の介入、時間的制約(通常4~6週間の限定)、懸念・不安の表出が奨励され、実際的な情報や支援が提供される。加えて、自我の適応力を強化し、対処能力を高めていく。
・初期段階はアウトリーチが重要である。

・総じて、ソーシャルワークが対処する今日的な問題として、ドメスティックバイオレンスや児童虐待、高齢者虐待等が挙げることができるが、危機への対応、その予防が重要なものとなっている。言うまでもなく危機介入は、主要な援助方法の一つであると言えよう。
 危機の渦中にある当事者は、困難な事態のなかで孤立し、拠り所が無い中で不安が蓄積され、危機に全人的に翻弄される。自ら選択し決断する能力も損なわれる場合もある。
 また、危機の体験によって、フラッシュバックや離人症等を生じる場合もある。危機による罪悪感、恥、怒りの感情、抑うつ状態や不眠もあり得る。
 危機介入は、苦境のなかにいるクライエントに、心理と社会の両方の側面から受容と尊重に基づいて寄り添い、危機のなかでの安全、拠り所をもたらす。それは人々の生命と権利を護るための緊急の全人的な援助である。

・危機介入によって、自殺の予防を図る。自殺対策の取り組みでもある。
 危機と社会的孤立への支援として、アウトリーチのアプローチも有効である。
 危機介入、アウトリーチの推進のために、包括的な相談支援体制の構築に向けたネットワークの形成が課題である。
 多職種・多機関との連携が求められる。

<補足>
*危機介入法の目標

 危機介入法は,危機状態に陥り、情緒的均衡が崩れている人に,介入によって,できるだけ早く均衡を回復させることを目標とする。他の事柄は、主要な目標とはしない。

*危機介入法の行われる期間
 危機介入法では,限られた時間内での面接で対処することになる。危機状態が持続するのはおよそ1~6週間程度で,その間にタイミングよく介入する必要がある。面接回数もそれ程は多くない(例:5回以内)。

*危機介入法で扱う素材

 危機介入法では,後に述べる危機理論に基づいて,現時点でのクライエントの問題発生状況を理解し,危機に関係する事柄に集中的に取り組む。生育歴などにまでさかのぼることはない。現在の問題の理解と,将来に向けての対処の仕方が中心的に扱われる。
また,危機への対処にあたって,心の内面の検討だけではなく,クライエントを支える可能性のある周囲の関係者(家族や学校・職場の関係者など)や関係機関(医療幾閑・各種の相談機関・行政機関)などの援助資源の査定と,その利用をはかり,必要があれは,家族面接や訪問面接などによって環境の調整を行なう。

*危機理論
 危機理論では,危摸状態とは,「人生上の重要目標が達成されるのを妨げられる事態に直面した時,習慣的な課題解決法をまず始めに用いて,その事態を解決しようとするが,それでも克服できない結果発生する状態である」と定義される。この,「人生上の重要目標が達成されるのを妨げられる事態」を危機発生状況とよぶ。危機発生状況ほ,ライフサイクル上のさまざまな発達課題として,あるいは偶発的な出来事として脅威,喪失などの形で生じる。たとえば,進学,恋愛,就職,結婿,子どもの誕生,子どもの独立,転職,定年退職,転居,移住などの折には,人ほ新しい対処様式を必要とする。また,病気や事故,天災,戦争などによって,親しい人を喪うこともありえる。そうしたときに,その人がそれまでに身につけている対処方法のレパートリーから解決方法を使い,うまく対処できた場合には危機状態にはいたらない。しかし,うまくいかないとき,危機状態が発生すると考えられる。
 社会福祉士受験支援講座・教員日記。

6節 行動変容アプローチ
○概要:行動変容アプローチ(行動主義モデル) E.トーマスら  1967年

 利用者の問題行動の原因や動機にさかのぼることをせず、問題行動そのものを取り上げて、特定の問題行動の変容を目標に働きかける。学習理論を導入した。あくまで目的は問題行動それ自体の解消、修正であって、問題行動の原因や動機を解消、修正することや、クライエントの意識や思考の変容は直接の目的ではない。
◎行動療法とは、学習理論を基礎とし,すべての行動は経験を通して学習されたものであると考える治療方法。

*解説:学習理論
 人の行動は学習によって形成され、また、その改善も学習によって達成されるとする理論である。

1 起源と基盤理論 テキストP159
・行動変容(行動療法)アプローチとも呼ばれる。行動療法をソーシャルワークに導入した。
・1960年代後半、精神分析や自我心理学の影響を受けたソーシャルワークへの批判から出発。
・基盤は、学習理論であり、リスボンデント条件づけ等、認知行動療法が折衷・統合的に導入されている。

2 行動変容アプローチを理解するためのキーワード
*学習理論

 広義には、人間の「学習」の成立過程を説明する理論を意味する。連合説は、刺激とそれへの反応の連合=学習である。認知説は、人間の環境に対する認知構造=学習である。

*オペラント条件づけ
・行動の結果の如何により、その行動の生起頻度が変容される過程。正と負、強化と罰の両側面をもつ。トークンエコノミー法などの具体的方法を用いる。

○補足:オペラント条件づけ
 生体の反応は,大きく①先行する刺激に誘発される行動(レスポンデント反応)と,②後に続いて起こる環境の変化の影響を受ける行動(オペラント反応)に分けられる。前者は古典的条件づけで形成されるが,後者はスキナーの実験に示されるように,生体の自発的行動(バー押し)に報酬や罰という強化子(食物)を随伴させることにより,その行動の生起率が高められる現象である。この手続きの中で,特定の自発的行動に続いて繰り返し報酬や罰を随伴させることを強化といい,一方,強化子を与えなければ反応は消去される。人間の行動も,誉められればそれが報酬となってその行動が強められ,逆に叱られればそれが罰となってその行動が弱められる。よって,不適応行動も、その行動によって不安や恐怖が回避される,あるいは満足を得られるなど,何らかの報酬が伴うことによって持続している。

*モデリング
 人間の行動は、他者の行動を観察し、模倣により学習する=社会学習理論に基づき、学習すべき行動を示す具体的方法。ロールプレイング法などが活用される。

○補足:モデリング(観察学習)
 必ずしも直接経験したり,強化が与えられなくても,他者の行動を観察することによって学習が成立することをモデリング(観察学習)と呼ぶ。

3 適用対象・適用課題 テキストP160
・多様な範囲が支援対象となり得る。不安や抑うつ、対人関係上の問題、暴力、問題行動などの課題に適応可能である。

4 支援焦点
・具体的に、望ましい行動を増加させ、望ましくない行動を減少させることである。
・社会福祉士受験支援講座・教員日記。

5 支援展開
・行動変容アプローチの展開過程-テキストP161図参照。
アセスメントの着眼点(方法)、目標設定や介入技法、また評価方法に特徴がある。

*補足:行動変容アプローチ
 学習理論をケースワーク理論に導入したもので、条件反射の消去あるいは強化によって特定の症状の解決を図るものである。利用者の問題行動の原因や動機にさかのぼることをせず、問題行動そのものに焦点を置き、変化すべき行動を観察することによって、特定の問題行動の変容を目標に働きかけ(条件反射の消去か強化)、問題行動を修正しようとする考え方をいう。
行動修正モデルにおいては、援助者は利用者の行動の原因を突き止めようとはしないし、なぜそうするのかも探ろうとはしない。問題行動の社会生活史をとることは援助者の目的ではないとされている。

*講義レジュメ 下記をクリック
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日本福祉教育専門学校 社会福祉士養成学科・養成科
*日本福祉教育専門学校 社会福祉士養成学科は、4年制大学卒業(見込)等の方々が対象の、1年制の社会福祉士の養成コースの昼間部です
 社会福祉士養成科は、4年制大学卒業(見込)等の方々が対象の、1年制の社会福祉士の養成コースの夜間部(2コース)です

社会福祉士及び介護福祉士法




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第8章 地域における精神保健問題 依存症と生活困窮(pp.171-178)
<概要>
 簡易宿泊所街「寿町」の精神科診療所におけるアルコール依存症と薬物依存症患者の支援の実践から、回復を図るグループワークや相談援助の課題等を考察した。
 生活保護を受給し簡易宿泊所に居住するアルコール・薬物依存症患者の回復の鍵を握るものとして、レジリアンスを挙げた。具体的には失敗を繰り返しても援助者と繋がり続け、危機を回避するための協働や、訪問やグループワーク等による社会的孤立を防ぎ、全人的な支援の持続が有効であると論じた。

by yrx04167 | 2011-11-07 21:53 | Comments(0)