2018年 05月 12日 ( 1 )

当ブログ筆者(大学助教)が、精神保健福祉士、社会福祉士の国家試験問題(2018年2月実施)の解説を執筆しました。低所得者に対する支援と生活保護制度の解説を担当
一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟=編集
中央法規出版
ISBN 978-4-8058-5661-1 予価 4,104円(税込)

一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟=編集
中央法規出版
ISBN 978-4-8058-5662-8 予価4,104円(税込)

 低所得者に対する支援と生活保護制度
 問題67のポイント(当ブログ筆者が解説を担当)
・保護の実施機関におけるドメスティック・バイオレンスの相談支援の事例。
・生活保護を受給するための要件とは何か。
・母子生活支援施設
・配偶者暴力相談支援センター
・母子・父子休養ホーム
・ドメスティックバイオレンス、暴力の被害、生活困窮等の危機状態
・ドメスティックバイオレンスと離婚、養育費 ポイント後半に続く

*問題67に関して、当ブログ筆者のコメント
 今回の、生活保護に伴う相談における、生活困窮、生活保護受給者とドメスティック・バイオレンスDVの事例問題の出題は、今日の社会の動向に即した優れた出題であると思われる。
 女性、特にシングルマザーの貧困は顕在化しつつあるが、ドメスティックバイオレンスが、その困窮化に密接に関連していること、つまり経済的困窮と家族問題、暴力・虐待の問題等が重複していることが、その特徴の一つである。換言すると連鎖的な悪循環とも言える。

<筆者のヒアリングから ドメスティックバイオレンスと連鎖した困窮化プロセス
 女性のドメスティックバイオレンス被害と並行した困窮化の過程は、以下のものである。
1.経済的な依存の強制、安定したキャリアの中断 DVプロセス
 ドメスティックバイオレンスの過程で、女性は「専業主婦化」を強いられ、経済的に依存させられる。これは、キャリアの中断も意味し、正社員への復帰や以前と同じ給与を獲得することから遠ざけられる。
2.ドメスティックバイオレンスによる安定した生活の破壊
 ドメスティックバイオレンスのエスカレートにより、安定した住居や生活の流れから、避難することを強いられる。子どもを連れ、一時保護やシェルターに避難することは、安定した生活と引き換えに、安全を手にすることであるとも言えるだろう。避難しないまでも、離婚に伴う引っ越し、再就職のための就職活動、子どもの保育園等の入園、子どもを含めた生活環境の変化は、過重な負担を母子に強いるものである。
3.就労等、生活再建の困難
 中断した安定したキャリアに復帰することは容易ではない。また、新たな資格、技能を身につけることは、経済的な負担、保育の確保等、困難なものである。
 これらのプロセスにより、ドメスティックバイオレンスと連鎖した困窮化が進む。
4.再出発した就労先、住まい、生活のDVによる再破壊
 場合によっては、確保した新たな住居や就労先に、ドメスティックバイオレンスの加害者が、追跡(ストーキング)し、再度の避難、就職先の変更を強いられることがある。

 つまり、女性の貧困化、生活困窮は、経済的困窮と、虐待・暴力、多様な家族問題、精神保健福祉の問題等が関連し、連鎖的な悪循環、重複しつつ深刻化する傾向がある。これらにより、更なる困窮化が進行すると考えられる。これらは、シングルマザー等に顕著にみられる。
 ブログ筆者は、貧困、生活困窮とは、複合的な生活問題であると考える。それは、失業等の社会的要因によって経済的困窮に陥り、その影響により、暴力・虐待やアルコール依存症等の家族の問題を生じる傾向がある。逆に、家族の問題が契機となり、失業し経済的困窮を招くこともあるだろう。
 このような貧困を巡り、生活、家族、心身の健康、社会的孤立、キャリア、子育て、教育等の諸問題が重層化する傾向がみられると考えられる。

 川原(2005)によると、女性の貧困問題は、出現の仕方やリスク要因に男性と異なる傾向があると考えられる。その特徴は三点である。
 第一に、核家族において、妻は無償で家事に専従し、経済的には夫に依存するという分担は、家族崩壊がもたらす貧困が、女性により深刻なものになる。
 第二に、家事労働が専ら女性の役割と位置づけられると、女性は家計補助的なパートタイム労働に就く「二流の労働力」として扱われ、賃金等で差別される。社会保障制度等も、男性のフルタイム労働者に有利に諸権利が保障されている。
 第三に、ドメスティックバイオレンス等の、男性からの暴力が要因となり、家族崩壊と失業、経済的困窮、ネットワークの断絶等の諸問題が、連鎖し重層的に女性に出現する傾向がある。
 川原等によれば、この傾向は、女性により優位に出現すると考えられる。

 江口英一による、女性の貧困や労働についての理論を参考としたい。
 江口は、労働省による『1954年個人別賃金調査及び職種別等賃金実態調査』を用い、女性の労働について述べている。
 ここでは、女性の労働市場は、男性とは別に構成されているとして、その要因として三点を挙げている。
 第一に、女性の労働には、家事労働の問題が必然的に含まれる。多くの家庭において、女性が専ら家事労働を担うことが前提になっている。
 第二に、女性の労働市場への参加は、家計補充的、窮迫的性格が強い。それは、所謂「共稼ぎ」によって、女性が得た賃金により家計を補うことを図り、または夫との死別や生別、失業等による困窮によって働かざるを得ないということである。
 第三に、女性労働の職種は「行き止り的」性格を持つ。女性の職種は、熟練を必要としない職種が多く、昇進の道が閉ざされている。他に、女性の職種の特徴として、各産業の付随的、周辺的職種が多いことも挙げられる。
 また、江口が、階層下降者に開放されている不熟練労働市場として挙げている、建設日雇労働の軽作業においても、性別による賃金格差がみられる。女性労働者の賃金は男性の約3分の2弱に過ぎないのである。
 つまり、江口による女性労働の問題点とは、家事労働が女性の本来の役割とする前提で、女性の賃金は家計を補充する程度でよく、その職種も不熟練なものであるから、昇進も無く賃金格差も正当化されているというものである。

 また、江口は、「女子日雇労働者層」の例を挙げて、女性の貧困、階層下降について述べている。
 ここでは、1955年の都内女性失業対策労働者17事例の調査結果を用いている。
 女性失対労働者の出身階層は、上下に幅広い分布である。しかし、独身期に就労した者の当時の職業は、子守や女中、女工等の低賃金労働か、行商や内職といった「例外なく下層に属す」ものである。結婚し、夫が主たる稼ぎ手であった時期は、夫の収入に応じて幅広い分布に戻る。夫との死別や生別等の要因により、女性が主たる稼ぎ手になると、再び下層の社会階層に下降する。その下降の要因とは、7割程が夫との死別であり、1割程が離別や失踪、2割程が夫の疾病や失業である。
 また、生活保護の受給歴は17事例のうち10事例であり、被受給層と低所得層の隣接がみられた。また、その食生活は米食中心ではあるが栄養が不十分であることが推測され、住環境も狭小、劣悪なものである。調査対象の全世帯が有子であるが、女性にとって子の扶養が重い負担であり、困窮した生活は子にも影響をおよぼすという悪循環の構造が考えられる。
 しかし、調査のなかでは、女性たちが子の成長だけに希望を託している傾向がみられた。
 江口による女性の貧困化の特徴とは、夫との死別・生別や、夫の失業により、貧困化が進行し、子の扶養は重い負担となる。その過程において、女性は家族や親族等に職や住まい等の援助を頼り、貧困化への抵抗を図るが、やがて人間関係も断絶され、更なる困窮に陥る。貧困化が進んだ時点で、口伝て等のインフォーマルな経路によって、失対労働に参加した者が多いという傾向がみられた。
 江口英一 1979,1980『現代の「低所得層」 「貧困」研究の方法  上, 中』 未来社
 コメントここまで

問題 67 事例を読んで,生活保護制度における多職種連携に関する次の記述のうち保護の実施機関の対応として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
 Hさんは夫との婚姻後,暴力を振るわれるようになった。長男( 2 歳)も夫から虐待を受けるようになったので,長男を連れて別居生活を始めたHさんは生活に困窮し,生活保護を申請した。なお,Hさんの離婚の意思は固いが,夫は離婚に同意せず子どもとの面会を希望している。
1 生活保護を受けるためには,母子生活支援施設へ入所しなければならないと説明した。
2 配偶者暴力相談支援センターに連絡し,援助を依頼した。
3 母子休養ホームに連絡し,長男の一時保護を行うよう依頼した。
4 家庭裁判所に対して離婚の訴えを提起した。
5 家庭裁判所に対して,Hさんと夫との養育費の支払についての話合いの機会を設定するよう求めた。
 答2

問題67 ポイント後半
 ”配偶者からの暴力”とは、「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むもの」と定義している。
 また母子生活支援施設とは、児童福祉法に規定された児童福祉施設であり、母子を入所させ保護するとともに、自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設である。 

 杉本(2004)によれば、「貧困の女性化」とは、シングルマザー等女性(とその子ども)が貧困・低所得層の多くを占め、また公的扶助の受給者のなかでも、シングルマザー等女性とその子どもが多くを占める現象を指す。この傾向は、アメリカ合衆国において1970年代後半から明らかになった。シングルマザーの急増と、合わせてこれに対して有効な社会的支援施策を持たない場合に顕在化する。

問題66のポイント 当ブログ筆者が解説
・福祉事務所を設置していない町村の役割等に関して。
・福祉事務所を設置していない町村は、社会福祉主事を置くことができる。
・「保護の実施機関」とは。
・福祉事務所を設置しない町村長の役割。
・「急迫した事由」とは。
・生活保護の開始または変更の申請
・被保護者(受給者)に対する指導又は指示

問題 66 福祉事務所を設置していない町村の役割・機能に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 町村は,社会福祉主事を置くことができる。
2 町村は,生活保護法における保護の変更の申請を受け取ったときは,保護の変更を決定することができる。
3 保護の実施機関は,町村に対し被保護者への保護金品の交付を求めることはできない。
4 町村は,被保護者に対し必要な指導又は指示をすることができる。
5 保護の開始の申請は,町村を経由して行うことができない。
 答1

<その他 現代社会と福祉>
問題 31 民生委員制度に 収斂されることになる戦前の方面委員等の仕組み(以下,「方面委員制度」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを 1 つ選びなさい。
1 「方面委員制度」は,イギリスの慈善組織協会(COS)よりも早く始まっていた。
2 「方面委員制度」は,方面委員令によって創設された。
3 「方面委員制度」は,恤救規則を実施するための補助機関とされた。
4 岡山県済世顧問制度に続き,大阪府で方面委員制度が設置された。
5 大阪府の方面委員制度は,河上肇を中心に立案された。
 答4

 当ブログ筆者のコメント 問題31に関して
 方面委員制度は、1918(大正7)年、大阪府に設けられた。
 その創設には、当時の大阪府知事であった林市蔵と(理髪店における、生活に追われる母子とのエピソードが伝えられている)、かつての監獄官僚、感化事業、社会事業家であった小河滋次郎(大阪府嘱託)が、尽力した。
 社会情勢として、物価は高騰し,米騒動の勃発等、社会問題と運動が広がる状況にあった。
 これに対し、社会による救済、篤志家としての方面委員を、市町村の各方面(区域)に配置し,その区域内の庶民の生活の調査,救護を要する家族の調査と具体的な支援、貯金の奨励、家族への生活安定に向けた支援、これら防貧の方法の研究などが行われた。
 方面委員制度は、小河滋次郎の「社会事業と方面委員制度」(1924年)の理論を、林大阪府知事が採用したものである。
 小河はドイツのエルバーフェルト制度などを研究し、その日本的な展開を図った。支援の方法と組織の理論、実践思想を同書に著した。その実践思想の根幹には、救貧よりも防貧、それよりも庶民の家庭に対する感化・教化(勤労と貯金、節約、禁酒、堅実な家庭生活の考え方、教育、経済よりも精神中心等)の重視があった。
 なお、方面員制度創設の前年である1917(大正6)年に、岡山県の済生顧問制度が創設されている。つまり、本問題の答は4である。
 当時の笠井信一岡山県知事によって設置された(大正天皇御前の地方長官会議におけるエピソードが伝えられている)。済世顧問は防貧活動をその使命とし、その防貧事業は精神上の感化,具体的な生活支援等によって実施された。1918年には,東京府慈善協会による救済委員制度が創設された。 
 
 1928年までに方面委員と同様の制度が全国すべての道府県に設置されたが,名称や制度の内容は全国統一のものではなく,委員の資格や選び方,活動、組織、運営についても地域による違いがあった。
 1932年には救護法が実施され,救護委員に方面委員があたることなった。1936年に全国統一の組織と運営を行うために方面委員令が制定された。方面委員令は、昭和11年勅令第398号であり、第一条「方面委員ハ隣保相扶ノ醇風ニ則リ互助共済ノ精神ヲ以テ保護指導ノコトニ従フモノトス」等と定めた。つまり、恤救規則(1874年)等、日本の救貧制度、事業における中心であった「隣保相扶」、地縁血縁による村落共同体を基盤とした相互扶助、共助の精神、伝統に沿った支援活動を行うことが根幹に定められた。加えて、職務は生活状態の調査、救護等であり社会施設との連絡と補助、方面委員は名誉職であり任期は4年間であることが定められていた。
 戦後、方面委員制度は,民生委員(1948(昭和23)年)に改められ、今日に至っている。民生委員法に規定されている。
 国際的に捉えても、日本の特徴的な、コミュニティワークの方法であり、地域福祉活動を代表する。

<出題傾向>
・ストレングス視点とポストモダニズムの潮流
・行動変容アプローチ 、学習理論のケースワークへの応用
・課題中心アプローチガ短期処遇の明確化、計画的短期性
・プランニングのプロセス、支援計画の策定を行う
・モニタリングの段階支援の効果の評価支援経過の確認などを実施する
・ソーシャルワークの記録の開示
・アカウンタビリティ
・ケアマネジメントの方法に関する問題

・インテークにおけるスクリーニング。支援の対象となるかどうかの判断
・ケアマネジメントにおけるリンケージ。社会資源とつなぐ連携する

・介護相談員
・認知症ケア専門士
・認知症地域支援推進員
・認知症サポーター
・地域福祉コーディネーター
・新・社会福祉協議会基本要項
・全国社会福祉協議会「在宅福祉サービスの戦略」
・福祉公社
・住民参加型在宅福祉サービス団体
・共同募金
・主任児童委員
・福祉サービス第三者評価事業、評価調査者


当ブログ筆者執筆
精神保健福祉援助演習(専門)第2版
精神保健福祉士シリーズ 10
福祉臨床シリーズ編集委員会 編

ISBN978-4-335-61117-9
発行日 2016/02/22 弘文堂

第8章 地域における精神保健問題(依存症と生活困窮)

 内容

 アルコール依存症からの回復とレジリアンス。

 アルコール依存症、薬物依存症と貧困、生活困窮の実践事例。

 精神科グループワーク、精神科デイケア、地域精神医療による総合的な地域生活支援。

 コミュニティワークとソーシャルサポートネットワークの構築。

 多職種によるチームアプローチ、連携。

 地域の特性。スティグマ。自尊感情の課題。

 人間の根源的な痛みと人間的孤立。


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