◆これらに共通する特徴
①利用者の環境を欠くことのできない焦点として見直す・心理―社会的モデルは診断主義の流れをくむものだが,F・ホリスは『ケースワーク―心理社会療法―』(1965年)のなかで「状況のなかの人」という視点を明確にしたシステム論的アプローチを提唱し,直接的技法と間接的技法を体系化した。「生活モデル」の個別援助技術がこの点を最も代表している。
・伝統的な「医学モデル」から「生活モデル」への転換の段階に入っていこうとしている。
②行動主義モデルや課題中心モデル,さらには危機介入モデルのように,ターゲットとなる問題と援助目標を明確にした比較的短期間の実践方法を形成する方向が顕著である。
即座の対応を迫る利用者のニーズの緊迫性とともに,政策上の対策という二方向からの社会的ニーズの反映をみることができる。
*F.J.ターナーは1974年に『ソーシャルワーク・トリートメント』を編集し,アメリカにおけるクリニカル・ソーシャルワークの理論を整理した。
その後1979年,1986年,1996年と改訂を重ねて理論動向を示す
*心理社会的アプローチ 精神分析,自我心理学,力動精神医学の知見を導入した診断主義ケースワークに立脚する,個別援助技術の主要アプローチの一つ。ホリスによって,1960年代に体系化された。ハミルトンらも代表的な研究者である。特に「状況における人」に着目し,クライエントの環境面と内面・心理面の相互作用を認識すること,さらにクライエントに対する直接的な働きかけと同じく,環境への間接的な働きかけや調整の重要性も強調した。
■用語解説:ホリス Hollis, Florence (1907-87) アメリカにおけるケースワーク理論の主流の一つである診断主義アプローチを代表する理論家の一人。特に,ホリスは,診断主義のなかでも「状況の中にある人間」(the-person-in-his situation)や「人と状況の全体関連性」(person-situation configuration)といった特有の概念を用いる心理社会的アプローチを提唱した研究者として広く知られ,ケースワークの発展に大きく貢献した。[主著] Casework : A Psychosocial Therapy, Random House, 1964 (邦題『ケースワーク――心理社会療法』岩崎学術出版社,1966).
*行動主義モデル(行動変容アプローチ) E.トーマスら 1967年 利用者の問題行動の原因や動機にさかのぼることをせず、問題行動そのものを取り上げて、条件反射の消去、あるいは強化によって、特定の問題行動の変容を目標に働きかける。学習理論を導入した。あくまで目的は問題行動それ自体の解消、修正であって、問題行動の原因や動機を解消、修正することや、クライエントの意識や思考の変容は直接の目的ではない。
◎アメリカで行動変容を臨床場面で用いる行動療法がケースワークに導入され,行動変容アプローチとしてソーシャルワークに浸透してきた。
行動療法とは、学習理論を基礎とし,すべての行動は経験を通して学習されたものであると考える治療方法。
例えば,子どもの夜尿行動は,子どもが正しい排尿行動を学習しなかった結果によるものであると解釈する。そこで,この治療理論では,子どもは正しい排尿行動を再学習すれば,夜尿行動は除去されると考えるのである。
■用語解説:学習理論 人の行動は学習によって形成され、また、その改善も学習によって達成されるとする理論である。
◎学習の基礎研究は,レスポンデント条件づけ,オペラント条件づけによるものがあり,さらには社会的学習理論や認知的学習理論など認知面も含めた学習に関する研究理論をいう。学習心理学でいう学習とは,「訓練や経験にもとづく比較的永続的な行動の変容過程である」とされている(久野能弘『行動療法』1993)。この学習理論を臨床的に応用したものが行動療法である。
◎オペラント条件づけとは、スキナー(Skinner, B. F.)らの実験に基づく学習理論。スキナーらは,空腹状態にある鳩を箱に入れ,箱にあるレバーを押せばえさが提示されるという実験装置を作った。最初,偶発的にレバーに触れえさが提示されていたが,やがてレバーを押す頻度が急増した。この実験をもとに,ある行動に続いて起こる結果が本人にとって報酬となるものならば(強化),その行動を維持・形成していくが,強化されなければやがてその行動は減少することがわかった。つまり,ある状況下でのある行動は,その結果しだいで増減するという考えである。
オペラント条件づけは,SD(弁別刺激)→R(反応)→SR(強化刺激)といった図式(三項随伴性)で表される。オペラントとは,自発的行動を意味する。
*危機介入モデル L.ラポポート 1970年◎危機介入モデルとは、危機状態にある対象者(個人, 集団, 組織, 地域など)に対して,その状態からできるだけ早く脱出することを目的に迅速かつ直接的に行われる援助。
危機とはクライエントがそれまで獲得し、用いてきた対処方法では問題解決を図ることができず情緒的に不安定な状況である。
危機に直面して情緒的に混乱している利用者に対して、適切な時期に、迅速に、危機介入していく援助方法である。精神保健分野などで発達してきた危機理論をケースワーク理論に導入したもの。
積極的・集中的な援助を行い、危機状況からの脱出を目的とする援助方法である。
■用語解説:危機理論 危機理論とは、火災で犠牲となった人々の関係者(遺族,親族,友人・知人)の悲嘆にまつわるリンデマン(Lindemann, E.)の研究に端を発し,後にキャプラン(Caplan, G.)らと共同で1940年代から60年代に構築された理論。
危機とは,対処困難な事態に突然直面した際に引き起こされる,身体的・心理的・社会的にホメオスタシス(恒常性)のバランスを崩した状態をいう。ホメオスタシスに基づく危機理論は,人が危機状態から脱する過程において一定の段階と法則が存在し,その期間が長期的なものではないとの仮定をおく。
この理論は,さまざまな理論(精神分析理論,自我心理学,学習理論,ホメオスタシス理論,ストレス理論など)から構築されているが,第一次世界大戦時から行われてきた,極度のストレスに陥っている兵士への精神医学的応急処置の実践,死別による急性悲嘆反応についてのリンデマンの研究,1950年代に展開した自殺予防運動などの実践活動や研究によって,その実践的な有効性が実証されてきた。今日,危機理論に基づいて行われる危機介入は,たんに精神保健分野のみならず,災害(自然,人為的),事件・事故,失業・解雇,死別などあらゆる危機的事態に直面する人々の支援の場面で行われている。
*課題中心モデル W.リード、L.エプスタイン 1972年 利用者の問題を、利用者が解決しなければならない課題として取り上げ、いかにその課題を解決するかについて、利用者と援助者が協力して解決しやすい方法を検討し、計画を立て、実行していく方法。伝統的ケースワークの長期にわたる処遇への批判から、短期の計画的援助を提唱した。具体的な作業計画の策定、実行、評価を通じて、短期間内で問題の解決を図る。課題の達成状況に焦点が当てられ、ワーカーはクライエントが実行可能な課題の設定やその達成に向けての作業に対して援助を行う。
◎課題中心アプローチとは、短期かつ計画的にクライエントの援助を行うケースワークのアプローチとして,シカゴ大学のリードとエプスタイン(Epstein, L.)によって研究・開発された。当初より,計画的短期性(planned brevity)をめざした。
クライエントの訴える問題を優先し,クライエントとともに課題を設定,遂行する援助方法である。目的をもった行動をアクションとよび,一連のアクションが「課題」(task)であるとしたこと,具体的な課題を設定する計画的なプロセスを明らかにしたこと,課題とケース目標を整理し,契約することによってケースに関わる者すべてが課題を共有すること,課題の遂行状況をモニターし評価する手順を明確にしたことなどが,課題中心アプローチの特徴であり,ソーシャルワークへの貢献であると考えられる。
*家族療法アプローチ 家族内に問題があると利用者が意識するか,援助者が家族で問題を解決するのが効果的であると判断した場合に開始される援助方法。
援助方法や技法は多様であるが,基本的には家族メンバーのそれぞれの思いを受け止めながら,問題解決が長引いている「偽解決パターン」を把握し,新しい解決パターンが生まれることをめざして援助介入が行われる。援助者は家族メンバー間の葛藤に巻き込まれないための中立的な立場をとり,家族関係を肯定的に評価するリフレーミング技法(reframing)を多く活用する。
1960年代以前よりアッカーマン(Ackerman, N. W.)ら精神分析派による家族療法が行われていたが,1970年代から,構造派とよばれるミニューチン(Minuchin, S.)やコミュニケーション派のヘイリー(Haley, J.),またウィークランド(Weakland, J.)を代表とするシステム型家族療法が紹介された。
原因探しや犯人探しをせず,家族を責めることなく家族関係を変容することによって問題解決を図ろうとする方法は,爆発的な人気を得た。わが国では,1984年ミニューチンの来日により家族療法は一時的なブームとなった。しかし現在では,家族療法の対象が神経症や精神療法領域に特化する傾向がみられ,児童虐待や多問題家族への援助などへの家族療法の限界も指摘されている。
*社会構成主義とナラティブ・アプローチ <概要>
・ナラティブ(物語)モデルは、利用者の語る物語を通して援助を行うものである。利用者の現実として存在し、支配している物語を、ソーシャルワーカーは、利用者とともに共同して見い出していく作業が求められる。そして、利用者が新たな意味の世界を創り出すことにより、問題状況から決別させる。
*ナラティブ・アプローチとは、クライエントと援助者が共同的関係性のなかであらたなストーリーを生成し、問題状況からの決別を図る援助方法である。
ナラティブ・アプローチはクライエントが「自己」について否定的なストーリーを抱き、それを変えることができないと信じ込んでいる場合に有効である。このようにクライエントのなかで確立しているストーリーをドミナント・ストーリーという。
まず、クライエントは、援助者との対話を通して、ドミナント・ストーリーを解体する。(「自己」についての否定的なストーリーが自明のものでも変えられないものでもないことに気づく。)この作業を問題の外在化という。そして、クライエント自身が新たに構成するストーリーをオルタナティブ・ ストーリーという。
*社会構成主義の概要 社会構成主義は、人は自分のもつ認識の枠組みや知識を使って世界を理解し自分なりの意味を生成するとみなす。社会構成主義は、同じ事象や現象であっても、時代や地域差によって意味が異なってくるという考え方にたつ。
ナラティブ・アプローチは社会構成主義の視点をソーシャルワークに応用した援助方法である。
M.ホワイトとD.エプストンは、家族を対象としたソーシャルワークに社会構成主義の考えを取り入れ、A.ハートマンとJ.レアードもこの考えをとるようになった。
・モダニズムは、究極的・客観的真理が存在するという考え方や、われわれの見る世界は隠された構造の結果であるという考え方に基づいている。
社会構成主義はこの考え方を否定するポスト・モダニズムを基礎としている。
■社会構築主義/社会構成主義 social constructionism・社会的慣行や社会的相互作用から人々が世界を構成する枠組が生まれ,それは言語によって媒介されると考える理論。構築主義と構成主義とは互換的に使用されているが,両者を明確に区別する立場からは,異なった理論として捉えられる。両者の共通点は,客観的な世界が実在するという論理実証主義に対する批判にある。しかし,社会構築主義は神経系が世界を生み出すという捉え方の影響を受けているのに対して,社会構成主義は社会的相互作用を強調する。ソーシャルワークにおいては,ナラティブ・セラピーの影響を受けた家族中心ソーシャルワークが取り込んでいる。
・ナラティブ・アプローチは、社会構成主義に基づくアプローチである。
社会構成主義は,これまでの主観・客観の二分的見方をとらず「現実は人々の間で構成される」とする。この前提から人々の経験している現実とは別の客観的な事実は想定できないとして,理解は治療の場におけるクライエントとカウンセラーの間の対話そのものにあるとする。「無知のアプローチ」に基づく「いま,ここで」の対話とその解釈が重視され,「治療的対話」に主眼がおかれる。
*ナラティブ・アプローチはストレングス(強さ志向)・アプローチの一種ともいえる。
サレエベイによれば、.ストレングスとは、人間は困難でショッキングな人生経験を軽視したり、人生の苦悩を無視したりせず、むしろこのような試練を教訓にし、耐えていく能力である復元力を基本にしているとする。
*ストレングス(長所または強さ活用)とは、長所あるいは強さに焦点をあてその人の残存能力の強みを評価するもので、クライエントの弱点や問題点のみを指摘し、その不足や欠点を補う従来の否定的なクライエント観から脱却を図る。
■ストレングス視点 strengths perspective・アメリカのソーシャルワーク実践理論において,1980年代以降提唱されている視点。それまで支配的であった病理・欠陥視点を批判する立場をとる。ストレングスとは,人が上手だと思うもの,生得的な才能,獲得した能力,スキルなど,潜在的能力のようなものを意味する。ストレングス視点とは,援助者がクライエントの病理・欠陥に焦点を当てるのではなく,上手さ,豊かさ,強さ,たくましさ,資源などのストレングスに焦点を当てることを強調する視点であり,援助観である。
社会福祉士受験支援講座の関屋光泰(東洋大学教員)が、東洋大学ライフデザイン学部にて、第33回社会福祉士、第23回精神保健福祉士国家試験受験対策直前講座で担当した講義の録画を期間限定公開。動画リンクは記事後半。 当ブログ筆者は、明治学院大学、日本福祉大学、山梨県立大学、ルーテル学院大学、日本福祉教育専門学校等の社会福祉士・精神保健福祉士受験対策講義を担当してきました。
日本福祉教育専門学校において8年間、毎年合格率80%以上を維持し、第23回社会福祉士国家試験では96.1%の合格率を達成しました。
当ブログ筆者は、毎年、中央法規出版『社会福祉士国家試験過去問解説集 全問完全解説』、『精神保健福祉士国家試験過去問解説集 全問完全解説』一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟=編集の解説を執筆しています。
低所得者に対する支援と生活保護制度の解説を担当。
今回の講義にも、社会福祉士国家試験出題予想・出題必須ポイントも含まています。